第367話 無知ほど怖いものはない
さてと……
「芽依ちゃん。このレーザー銃……そこらに置いておくわけにはいかないよな?」
「当然ですよ。ちょっとでも穴が空いたら、周辺が汚染されます」
「僕らが持っていても、邪魔でしょうがないのだが」
「普通は、フッ化水素対策を施した専用トランクに入れて持ち運びするのですが……」
芽依ちゃんは女の子の方を向いた。
「これを保管するトランクがあったはずです? どこにあるのですか?」
「トランク?」
「そうです。普通、これを使うときはフッ化水素漏れが起きた時に、すぐに対処できるよう足下に置いておくはずですが……」
実際、先日のドーム攻防戦で香子が使ったときはそうしていたらしい。
だが……
「え? トランクって、これを入れていた鞄みたいな奴のこと? 重いから武器庫に置いて来ちゃったけど……」
こいつは……
「あなた……これがどんな武器だか分かっているのですか?」
「どんなって? レーザー銃でしょ」
「そうです。そのレーザーを撃つ度に、毒ガスが発生している事は知っていますか?」
「え? なにそれ?」
無知ほど怖いものはない。
芽依ちゃんは頭を押さえ込んで黙り込んだ。
代わりに僕が質問を続ける。
「さっきトランクを武器庫に置いてきたと言ったが、君はレーザーを勝手に持ち出してきたのか?」
「そうだよ。だって、お姉ちゃんは『おまえには十年早い』と言って使わせてくれなかったから……」
ナンモ解放戦線の人たちよ。武器庫の管理はきちんとやっておけ。
「しかし、君はレイラ・ソコロフと一緒に行動していたのだろ? 彼女は君がレーザー銃を持っているのを見て何も言わなかったのか?」
「おばあちゃんには、お姉ちゃんから許可もらったって嘘ついた」
なんて奴だ……
「いいか。よく聞け。この銃から毒ガスが漏れたら、僕達だけでなく君も君の仲間もみんな死んでしまうところだったのだよ」
「ええ!? そうなの? そんなの聞いてないよ」
あなのあ……
「北村さん」
ん? 芽依ちゃんの方を無理向いた。
「今、この人レイラ・ソコロフさんの事をおばあちゃんと言っていましたけど……」
そういえば言っていた。
「ナージャさんの姉妹では?」
え?
「そうだよ。あたいはナージャ姉の妹のキーラ。キーラ・ソコロフ」
確かに、顔が似ている。性格は大分違うが……
「芽依ちゃん。こいつを連行しよう」
「捕虜にするのですか?」
「いや、すぐに解放する」
僕達は、キーラを連れて空中へ飛び上がった。
「ぎゃあ! 降ろせ! あたいをどこへ連れて行く!?」
空中でジタバタしながら、キーラは悲鳴を上げている。
言っておくが、捕虜虐待をしている分けではないぞ。
「キーラさん。暴れると落ちちゃいますよ」
「だから、あたいをどこに連れて行くのさ?」
「北村さん。どこへ連れて行くのですか?」
「さっきの砲兵陣地で解放する」
僕の話を聞いたキーラの顔がさっと青ざめた。
「ぎゃあ! やめろ! 砲兵陣地には姉ちゃんがいるんだあ! レーザー持ち出した事が姉ちゃんにバレたら折檻される!」
キーラにかまわず、僕らは砲兵陣地上空へ飛んだ。
程なくして到着。
スピーカーで地上に呼びかける。
「ナージャ・ソコロフ。話がある」
地上にいたナージャ・ソコロフが上空を向いた。
「また、おまえたちか。何の用だ?」
「捕虜を一人解放したい。今から、下に降りるからくれぐれも銃撃をしないようにしてくれ。僕らは撃たれても平気だが、捕虜はそうはいかない」
「分かった。撃たないから降りてこい」
降りてきた僕らが連れてきたキーラの姿を見て、ナージャは目を丸くする。
「キーラ!? あんたどうして?」
「お……おばあちゃんと、一緒に攻撃に行ったら、捕まっちって……」
「おばあちゃんはどこよ?」
「ええっと……」
「キーラ。ロータスにいた帝国軍は、もう逃げちゃった後なのよ」
「そうなの?」
「今、ロータスにいるのはカルカとリトル東京の軍なの」
軍隊じゃないけどね。
「早くこのことをおばあちゃんに知らせて、戦いをやめさせないとリトル東京とカルカを敵に回しちゃうのよ」
「え?」
キーラは僕達の方を向いた。
「あんたたち、帝国軍じゃなかったの!?」
そういえば、まだ言っていなかったな。
「僕達はリトル東京の者だ」
「ごめんなさい! リトル東京の人だと知らないでレーザー撃ったりして」
分かってもらえればいいんだよ。
だが、今の話を聞いたとたん今度はナージャの表情は険しくなった。
「キーラ。あんた、今何を撃ったって言った?」
「れ……れいざあ……」
「それって、私がリトル東京でもらってきた奴じゃないわよね?」
「それ……だけど……」
「ぬわにい!」
鬼のような表情になったナージャに、芽衣ちゃんがレーザー銃を差し出した。
「これ、お返しします」
「な!? むき出しじゃないの! トランクはどうした!?」
「妹さんが武器庫に置いてきたそうです」
「なんだってえ!?」
「それじゃあ、お返しします」
「ちょ……ま……こんな危ないもの返されても困る」
「私たちも扱いに困っているのです」
「しかし、ガスが漏れたら……」
「応急処置ですが、穴を掘って埋めて置いてはどうでしょう」
「分かった! そうする」
そのまま僕達は、砲兵陣地を後にして再び役所へ向かった。
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