第344話 撤退する帝国軍

 通信が終えると、僕達は身支度をしてチェックアウトした。


 ホテルを出ると、さっきまでチラホラ見かけた帝国兵の姿がない。


 もう撤収を始めているようだ。


「ミール。港の様子を見に行こう」

「ええ」


 夕闇迫る町中を、僕とミールは港へ向かって走った。


 十分ほどで、港を見渡せる高台に着く。


 木造帆船が次々と、大河へ出航していく様子が見えた。


「《アクラ》はどこだろう?」

「カイトさん。あれでは?」


 ミールの指さす先に視線を向けると、四隻の木造船を曳航している小さな船の姿があった。双眼鏡で見ると、ミーチャの絵とそっくり。


 間違えなく《アクラ》だ。


 ポケットからPちゃんを取り出した。


「Pちゃん。《アクラ》の速度を割り出してくれ」

「はい。ご主人様。しばし、お待ち下さい」


 Pちゃんの目がしばらく点滅した。


「測定できました。《アクラ》の速度は九ノットです」


 かなり、遅いな。これなら追いつける。


「カイトさん。あれを」


 ミールが桟橋の方を指さした。

 桟橋の上で帝国兵数人とナーモ族がもめている。


「あの人、町長じゃないですか?」


 確かに、さっき酒場で見かけた女性がいる。


「行ってみよう」


 僕達が桟橋に着いたときには、すっかり日が沈んでいた。


 街灯の明かりの下で、町長を含めたナーモ族達が、去っていく船を呆然と眺めている。


「もう、おしまいだわ。帝国軍に逃げられては……」


 町長の声が聞こえる距離まで来た。


「町長。まだ諦めるのは速いです」

「気休めはよして。どうやって、五千の盗賊団から町を守れると言うの?」

「カルカに援軍を頼みましょう」

「カルカに借りなんか作りたくないのよ。また、奴隷を解放しろと言ってくるわ。それに盗賊団は明日にでもやってくるのよ。カルカ軍が到着するころには、町は蹂躙された後よ」


 どうやら、援軍を申し出るのに良い機会のようだ。


 この時、町長が僕達に気が付いた。


「なに!? あなた達は」


 ミールが一歩前に進み出た。


「初めまして。町長さん。あたしは分身魔法使いのカ・モ・ミールと申します」

「カ・モ・ミールですって!?」「おい! それって」「シーバ城で帝国軍を苦しめた魔法使いじゃ?」


 ミールって、結構有名だったのだな。


 続いて、ミールは僕を指さした。


「そして、こちらの殿方は勇者カイト」


 おいおい……その名前はベジドラゴンの間だけでしか通じない……


「勇者カイトだと!?」「帝国軍百個師団を一人で殲滅したという地球人の戦士」


 伝わっていたのか……ていうか、噂に尾ひれが付きまくりなんですけど……帝国軍百個師団って、帝国の全人口動員しても足りないんですけど……


「嘘おっしゃい! 勇者カイトと言ったら地球人でしょ」


 そう言って、町長は僕を指さす。


「この男はどう見てもナーモ族よ」


 あ! ホロマスクを解除していなかったな。


「おお!」


 ホロマスクを解除すると、ナーモ族達はどよめいた。


「地球人になったぞ!」「どんな魔法だ?」 


 魔法と思われているようだ。


 ナーモ族達の驚きが冷めるのを待ち、僕は言った。


「みなさんにお話ししたい事があります」

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