第343話 定時連絡

 Pちゃんが壁に向かってレーザーを照射。プロジェクション・マッピングでアーニャ・マレンコフの姿が現れた。


 ちなみにPちゃんの後頭部にもカメラがあって、こっちの様子を向こうの本体が映しているらしい。


『定時連絡が遅れた事情は、Pちゃんから聞いています。大変だったわね。ホテルでエラと鉢合わせになるなんて』

「ええ……幸いな事に、他のエラとの情報共有ができていない奴だったので、命拾いしましたが……」

『そう。ところで、二人がホテルに入ったのは、人目に付かないように盗聴器の電波を受信するためだったわね』

「そうですけど……」

『では、北村海斗君。あなたの頬についているキスマークはなに?』

「ええ!?」


 慌てて、頬を拭った。


『やはり、そういう事をしていたのね』

「え……いや……その……」


 はめられたか?


『《海龍》に戻ったら、お説教が必要かしら?』

「いや……これはですね。所謂ラッキースケベという奴で……」

『ラッキースケベ?』

「エラに吹っ飛ばされた僕の上に、やはり吹っ飛ばされたミールが落ちてきて、偶然唇が……」


 我ながら下手な嘘だな……


『そんな偶然あるかしら』


 あんまし、ないだろうなあ……でもここで引き下がるわけには……


「あるでしょ。無重力状態の宇宙船の中で男女が向き合っている時に、突然エンジンが点火されるとか」


 ここはアーニャさんの弱点を突かせてもらおう。


『う!』


 アーニャさんが顔をしかめる。


『そうね。そういう事もあるわね……で、誰に聞いたの?』

「さあ、誰でしょ」

『まあ、いいわ。報告を聞かせてもらえる』


 僕は盗聴器で知った情報を話した。


『そう。盗聴に気づかれてしまったのね。それで、君はこの後どうするつもり?』

「もちろん、盗賊団からこの町を……」

『それで、いいの?』

「え?」

『そんな行き当たりばったりの状況に流されて、この先の行動を決めていて本当にいいの?』

「ええっと……」

『私達の当初の目的は、マテリアル・カートリッジの奪還。こんな盗賊団なんかに関わっていたら、《アクラ》に逃げられてしまうわよ』

「それは……」

『《アクラ》の船足は速いわ。本気で逃げられたら《水龍》《海龍》の速度では追いつけない』

「それは、大丈夫です」

『根拠は?』

「《アクラ》は木造船四隻を曳航しなければならないはず。そんな速度は出せない」

『でも、私達がやってくることは知られてしまった。《アクラ》は木造船を見捨てて、逃亡するかもしれないわ』

「それも大丈夫です」

『なぜ?』

「成瀬真須美に知られてしまったのは、僕がそっちに向かっている事。いや、それだって推測に過ぎない。彼女は単に盗聴器を見つけただけで、僕には推測を話しただけ。僕達の目的が、カートリッジ奪還だという事は、まだ知らないはず。それならむしろ、艦隊を守るために逃げないと思います」

『なぜ逃げないと思うの?』

「こちらの目的がカートリッジの奪還であって、木造船に興味がないと分かっていれば《アクラ》はさっさと逃げるでしょう。しかし、それが分からなければ、僕らの目的を艦隊殲滅、あるいはナーモ族奴隷の解放と判断すると思います。そうなると《アクラ》は艦隊を守るために逃げられないと思います」 

『はい。合格』

「え?」

『私の考えも同じよ』


 だったら、こんな試すような事聞かなくても……


『君が行き当たりばったりで行動していないかと思って、ちょっと意地悪な質問しちゃったの。ごめんね』

「はあ」

『私もロータスを見捨てていいなんて思うほど、冷酷な女ではないわ。ただ、私達もあまり時間がない。可能な限り、盗賊団は速く殲滅する必要があるわよ』

「それは、分かっています」

『では、速やかに行動してね』


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