第340話 Pちゃんが捕まった?

 成瀬真須美はさらに話を続けた。


『北村君。こんな物を仕掛けたという事は、私を追いかけて来る気かな? でも、残念ね。聞いての通り私達はこれから出発するの。それと、聞いていたと思うけど、このロータスの町は盗賊団に狙われているのよね。それを帝国軍は見捨てて逃げると言うから、私としても心苦しかったのだけど、君がそれを知ってしまったのなら大丈夫よね。君ならまさか、町の人達を見捨てたりはしないわよね?』


 う……


『それとも『こんな町どうなろうと僕の知った事ではない』とでも言う? 言わないわよね。君は優しいから。盗賊団が攻め込んで来たら町は大変よ。建物には火をかけられ、男は皆殺し、女は凌辱され、子供は連れ去られて奴隷にされる。君はそれを、見て見ぬふり出来るかしら?』


 で……できん……


『じゃあ、盗賊団を倒したら、また追いかけてきてね』


 くそ! こうなったらエラだけでも、この場で……


「Pちゃん。盗聴はもういい。それより、僕らの縄をほどいてくれ」

「分かりました」


 Pちゃんはベッドに飛びあがってきた。


 その時……


 ガチャ


 浴室の扉が開く。


「Pちゃん。隠れろ」


 小声で支持すると、Pちゃんは僕のポケットに潜り込む。 


 バスルームから出てきたのは、カミラ一人。エラは出てこない。


「あなた達、小さな袋を持っていないかしら?」


 袋? 何に使うのだ?


「巾着のような物が、いいのだけど」


 カミラは室内を見回す。今、テーブルの下を見られるわけにはいかない。PCやアンテナが置きっぱなしだ。カミラの気を逸らさないと……


「ああ! そういえば、上着のポケットに入っていたかな」


 テーブルの下を見られるぐらいなら、ポケットを探られた方がまし。そこに見られて困るような物は……いかん! Pちゃんが入っていた!


 と、気が付いた時には、上着のポケットに手を入れられていた。


「ん?」


 ポケットから出たカミラの手には、Pちゃんが握られていた。

 怪訝な顔をしてから、カミラはPちゃんをポケットに戻すと僕の耳に口を寄せる。


「可愛いお人形さんね。彼女へのプレゼントかしら?」

「え? ああ、そうです」


 そういう事にしておこう。


「ごめんね。彼女には見られないように、ポケットに戻しておいたから」


 え?


「袋というのは、プレゼント様のかしら?」

「まあ……そうですけど……なかったですか?」


 元々、入ってないけどね。


「いいえ、そんな大切な物は使えないわ」


 そう言って、カミラはミールの方へ向かった。


「ちょっと! なにするのですか! 人のポケットに……」


 カミラは、ミールの上着のポケットに手を入れて、巾着袋を取り出した。


「返して! あたしの財布! どろぼう!」


 いや、ミール。その財布は元々、帝国兵から君が盗ったものだろう。


「中身は返すわ」


 カミラは巾着から銀貨、銅貨を出してベッドの上に積み上げた。

 さらに、自分の財布から銀貨二枚を取り出してミールの前に置く。


「これでもっと可愛い財布を買いなさい。こんな男物の財布、可愛い女の子には似合わないわ」

「どうぞ、使って下さい。お姉さま」


 ミール……君はつくづくお金に弱いな……


「ところで、お姉さま。その袋を何に使うのですか?」

「薬を入れるのよ」


 魔法回復薬用か。袋を探しにきたという事は、もう完成したのか?

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