第338話 盗聴

「Pちゃん?」

『私は、ご主人様の翻訳ディバイスとリンクして話しております。それと私は今、ポケットの中にはいません』

「じゃあ、どこに?」

『テーブルの下です』


 ベッドから身を乗り出して、テーブルの下を覗いた。


 最初に目に入ったのは、僕のリュックサック。


 そこから引っ張り出されたと思われるタブレットPCと、Pちゃんの頭がケーブルでつながっていた。別のケーブルがPCから伸びて、盗聴器用のアンテナとつながっている。


『ご主人様。ミールさん。盗聴器の電波を受信しました。今から、お二人の翻訳ディバイスに送ります』


 イヤホンから聞こえてきたのは、木の床を踏みしめる足音。船長はどこかの建物内の廊下を歩いているようだ。

 足音が複数聞こえる。三人~五人くらいかな?


『あの……なぜ、提督とはお会いできないのですか?』


 女の声……これは町長だな。


 船長の声がこれに答える。


『もう、今さら隠すまでもないから話しておこう。提督のオルゲルト・バイルシュタイン中将は戦死された。おまえ達がこれからお会いするのは提督代理だ』


 バイルシュタインの戦死は伏せられていたようだな。


 やがて、若い男の声が聞こえてきた。

 この若い男が提督代理のようだ。

 しばらく話し合いが続いた後、提督代理は『検討しておく』と言って町長らを帰した。


 その後……


『おい。すぐに日本人達を呼べ』


 成瀬真須美達に、なんの用だろう?


 程なくして、扉の開く音が聞こえた。


『お呼びですか?』


 女の声……これは成瀬真須美だな。


『ナルセか。この町で、これ以上の奴隷調達は打ち切る事にした』


 なに?


『漕ぎ手のいない船が四隻残っている。済まないが、今夜にでも艦隊は出発するから、もうしばらく《アクラ》で曳航していてくれ』


 なんだって!? こいつ逃げる気か?


『私はかまいませんけど、なにがあったのですか?』

『盗賊団だ。盗賊団がこの町に迫っている。ロータスの町はそれと戦うために戦闘奴隷を集めているのだ。その為に奴隷の調達が難しくなっている』


 おい! おまえらが盗賊団を討伐すれば回してくれるという話だろ。


『盗賊団? では、帝国軍の戦力で討伐すれば……』

『戦力が残っていると思っているのか?』

『ないのですか? カルカでかなりの戦死者は出ましたが、盗賊を討伐するぐらいの人数は……』

『人数はともかく、もう弾薬がないのだ。ロータスの町で硝石と木炭を買い付けたが、硫黄が入手できないので弾薬を調合できない。残っている弾薬だけでは、まともに戦えない』

『だから逃げると?』

『無駄な戦いで、これ以上戦死者を出せるか』

『では、私達のロボットスーツとドローンで爆撃して、盗賊団の戦力を削いで……』

『話は最後まで聞け。この町にファースト・エラがいるという話は聞いているか?』

『ええ。最初に再生されたエラ・アレンスキーですよね。よりによって、この町に現れたとか……』

『そうだ。軍法会議にかけられる前に脱走した後、行方不明になっていた奴だ。しかも、今分かった事だが、奴は盗賊団に加わっていたらしい。盗賊団を討伐するとなるとエラとも戦う事になる』

『あの……提督代理』


 船長がおずおずと口を挟んだ。


『どういう事です? エラ・アレンスキーが軍法会議にかけられたとか……最初に再生されたとか……』

『ち! おまえは知らなかったのだな』


 スラ!


 サヤから刃物を抜く音?


『て……提督代理! なにを……』

『この場で誓え。ここで聞いた事は絶対に口外するな』

『誓います! 誓いますから、剣を納めて下さい』

『いいだろう。だが、艦隊内でこの噂が広まった時は真っ先に貴様を殺す。たとえ、貴様が情報漏洩に関わっていなくてもな』

『そんな無茶な』

『情報が漏れなければ済む事だ。分かったら、おまえも情報が漏れないように気を配れ』


 この提督代理、バイルなんたらより冷酷だな……


『ついでだから、教えておいてやる。エラ・アレンスキーは帝国がその存在を否定しているコピー人間だ。しかも、三十年前に禁忌を破って八人作られた』

『なんですと!?』

『それをやったのは、亡くなったオルゲルト・バイルシュタイン中将と、その兄である俺の父だ』


 冷酷だと思ったら、あいつの甥だったのか。


『父は今、国防大臣の職にあるが、いずれは帝国の実権を握る予定だ。そんな時に、過去の不祥事が明るみになると色々とやっかいなのだよ』

『さ……さようで……』

『さて、ここまで知った以上、貴様も仲間になってもらうぞ』

『は?』

『嫌か? 嫌なら仕方ない』

『いえ、なります。仲間にして下さい』

『いいだろう。さて、ナルセ。邪魔が入ったな。どこまで話した?』

『ファースト・エラが盗賊団に入ったというところまでですが……』

『そうか。奴はどうやら、魔法回復薬の原料を求めてこの町に来たらしい。しかも、すでに入手したようだ』


 何だって?

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