第327話 ロータスの町

 僕達は町中の適当ところで、乗り合い竜車から降りた。


 遠ざかっていく竜車には、まだエラが乗っている。


 後を付けたいところだが、今はそんな余裕はない。


 どうやら、奴は薬をほとんど持っていないらしい。叩くなら今なのだが、こっちもロボットスーツがないし、何より本来の目的は帝国艦隊の動向を探ること。エラに関わっている余裕はない。


 せめて、エラが薬を手に入れられないように妨害できないだろうか?


 エラと一緒にいた女が薬を作るようだが……


「ミール。さっきの……」


 僕のセリフをミールが遮った。


「カイトさん。ここは人通りが多すぎます。どこか落ち着いて話をできるところに入りましょう」

「そうだね」


 周囲を見回したが、ロータスの町は本当に人通りが多い。


 東京ほどではないが、それでもカルカの町よりの多くの人が行き交っていた。ヒソヒソ話をするには向かないな。


「カイトさん。あの店に入りましょう」


 ミールが指さしたのは一軒のカフェ。


「あの店は、カップル専用の店ですから、密談にもうってつけです」


 そうなのか? 日本にもそういう店があったが……


「ミールさん。デートではないのですよ」


 腕にしがみついているPちゃんの方へ、ミールは顔を向けた。


「だめですよ。お人形さんが喋っては、怪しまれるではないですか」

「人形じゃありません。アンドロイドです。いいですか、ミールさん。私達は隠密活動中ですよ。分かっているのですか?」

「分かっていますわ。でも、隠密活動って人に悟られてはいけないのでしょ。だから、悟られないように、あたしはカイトさんとカップルを装うのです」

「隠密活動にかこつけて、ご主人様とデートしようという魂胆ですね?」

「違います。隠密活動を誤魔化すために仕方なくデートをするのです」

「仕方なく? ご主人様、聞きましたか? ミールさんは、本当は嫌なのに、仕方なくご主人様とデートするそうです」


 おいおい……


「そ……そんな事言ってないでしょ! あたしがカイトさんとデートするのが、嫌なわけないじゃないですか!」

「やはり、隠密活動にかこつけてデートするのですね」


 あ……頭が痛い……

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