第328話 そろそろ密談をしたいのですけど……

 カフェに入ると、個室席に案内された。


「ごゆっくりして行って下さい」


 飲み物を運んできたウエートレスが、意味あり気な笑みを浮かべながら出ていく。


 鍵のかかる個室。窓のカーテンを閉じれば、外からは中で何をやっているかは分からない。カップルが男女の営みをするには好都合な店だ。同時に密談にも使える。今回は、そのために入ったわけだが……

  

 カーテンの陰から、外の様子を伺うと、多くの人が行き交う通りが見下ろせた。ナーモ族が多いが、プシダー族、他にも種族名は知らないが、ケンタウルスのような半人半馬の種族や、大きな鳥のような種族も混じっている。


 それはいいが、帝国人はいないだろうか?


 いた!


 明らかに軍人と思われる一団が通り過ぎる。 


 素顔を晒している時にあれに見つかったら厄介だが、この部屋は三階なので、窓からのぞかれる心配はないだろう。

 

「ミール。今は、ホロマスクを切っても大丈夫だ」

「はーい」


 背後からミールの返事が聞こえる。


 さてと、僕もホロマスクを切って……あれ?


 テーブルを挟んで向かい側の席に座っていたミールの姿がない。

 そのまま自分の席に座る……ふか!


 なんだ!? この暖かくて柔らかい感触……ミール! 窓の外を見ている間に、僕の席に移動していたのか。


 かなり大きな椅子だから、二人並んで座れないこともないが……


「ミール。いつのまに……」


 横からミールが僕に抱きついてきた。


「カイトさん。ここって、こういう事をする店だって知っていました?」

「知ってはいたが……僕達は、そう見せかけて密談を……」

「そう見せかけて密談をしようとしていると見破ったスパイが、立ち聞きをしているかもしれないじゃないですか。その裏をかいて、こういう事をしていれば、立ち聞きしているスパイはそのうち『ち! 聞いていられるか! リア充爆発しろ』と言って、立ち去っていくでしょう。その頃合いを見計らって、密談をするのです。完璧な作戦ですね」


 なんで、ミールが『リア充』なんて言葉を知っている……あれ?


「ところで、Pちゃんは?」

「あそこです」


 向かい側の席で、Pちゃんが紐で縛られ、猿ぐつわをされてジタバタしていた。


 Pちゃんの周囲では、身長三十センチの分身達ミールズ五体が見張っている。


「ちょっと、可哀相では……」

「大丈夫です。事が終わったら解いてあげますわ。それに、さっきのPちゃんのセリフは、少しムカつきましたので」


 ミールの顔が僕に迫る。


 …


 ……


 ………


「そろそろ、スパイもどこかへ行っちゃったでしょ」


 ミールがそう言ったのは、店員がドアをノックして『延長しますか?』と聞いてきた直後の事……そもそも、スパイだっていたのかどうか……

 

「二人とも、非道いです。私の見ている前であんな事を……」


 困った。Pちゃんが泣いている。


「Pちゃん……その……」


 なんて、声をかければ……


「ご主人様なんて嫌いです。不潔です。この惑星に来てから、ずっと親身になってお世話してきた私を助けてくれないなんて……」


 ううう……罪悪感が……


「カイトさん。Pちゃんの感情って、ある一定レベルまで高まると消えるのでは?」


 え?


 あ! Pちゃんの泣き声が止んだ。嘘泣きか。


「ふふふふふ。ミールさん、よくぞ私の嘘泣きを見破りましたね」

「純真なカイトさんは騙せても、あたしは騙せません」

「これで勝ったなどと思わないで下さいね」


 あの……そろそろ密談をしたいのですけど……その前に聞いておきたい事が……

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