第299話 隠れていた電磁砲(天竜過去編)

 僕達の報告を受けた《天竜》は、五十機の宇宙機を投入して、惑星上の捜索を開始した。


 もし、レムを入れるようなコンピューターがあるなら、近くに大きな熱源があるはず。


 《朱雀》も帰還を遅らせて、惑星上の熱源を捜索していた。


 その結果……


「見つけた」


 と、僕が呟いたのは、とある島の上空。島の広さはシンガポールぐらい。その島の一か所から、異常に大きな熱源が見つかった。


 熱源の辺りを拡大すると、高さ十メートルほどのドーム状構造物がある。


 この中にコンピューターがあるわけではなく、恐らくこの中に発電用の原子炉か核融合炉があるのだろう。


 コンピューターはその近くにあるはず。


 ただ、問題は……


「これで、六つ目ね」


 僕の横を飛んでいるアーニャは、疲れたように言う。


「レムの奴……いったい、いくつコンピューターを作ったのかしら?」


 今までにも同じような熱源が、惑星上で五ヶ所見つかっていたのだ。


「アーニャ。コンピューターは見つかったけど、地上から大気圏を突破して《天竜》を攻撃できるような兵器は見当たらない。もう大丈夫じゃないかな?」

「そうね。私の取り越し苦労だったかも知れない。レムは外部のコンピューターに逃げたけど、地上から衛星軌道上の宇宙船を攻撃できるだけの兵器は用意できなかったのかな?」

「とにかく、一度 《朱雀》に戻ろう。推進剤も乏しくなってきたし」

「そうね」


 十分後、僕達は《朱雀》にドッキングして宇宙機のリンクを切った。 


 感覚が戻るのを待って、保護カバーを開く。隣でアーニャも保護カバーを開いていた。重力は感じない。《朱雀》は慣性航行中のようだ。


 アーニャと一緒に操縦室に行くと、ヤンさんが《天竜》と交信中だった。


 どうしたのだろう?

 

 楊さんの顔は緊迫している。何かあったのだろうか?


 通信を終えて楊さんは振り向いた。


「《天竜》が電磁砲レールキャノンの攻撃を受けたわ!」

「「ええ!?」」


 そんなバカな? 地上には《天竜》を攻撃できるような兵器はなかったはず……


「攻撃は第一衛星の月面からよ。レムはそこに砲台を築いていたのよ」

「月面は、マークしていなかったのですか?」


 僕の質問に、楊さんは首を横にふる。


「月面にも偵察機を出したわ。しかし、月面に熱源はまったく観測されなかったのよ。さっきまでは……」


 さっきまで?


「攻撃を受けた後、電磁砲レールキャノンの発射地点に宇宙機を差し向けると、さっきまではなかったはずの熱源が現れていたのよ」


 そうか! レムはずっと《天竜》が来るのを月面で待ち構えていたんだ。熱源となる反応炉をすべて停止させて……


 そして、《天竜》の偵察機が通り過ぎた後で反応炉に火を入れて攻撃してきたんだ。


「《天竜》の被害がどの程度か分からないけど、最悪このまま惑星に落ちるかも知れない。すでにシャトルは地表へ向って降下を始めたわ。だから《朱雀》は《天竜》には戻らないで、バリュートを開いて地表に向かうようにとの指示よ」

「待って下さい。砲台をあのままにしておいていいのですか?」

「アーニャ。砲台にはすでに無人機を差し向けたわ」


 楊さんがそう言った時、《天竜》から再び通信が入った。


「なんですって!? 無人機が全滅?」


 攻撃に向かった無人機に対して、敵は月面から拡散グレーザー砲を撃ってきたのだ。


 無人機もやられる前に電磁砲を撃ったが、砲弾が着弾する前に砲台は地下に隠れてしまった。


 程なくして予定は変更されて、僕達朱雀隊が砲台を攻撃することになった。



 僕とアーニャの機体が、横並びに月面スレスレを飛行していたのは《天竜》が攻撃を受けてから二十分後の事だった。


 姿は見えないが、月平線の向こうにはワン 博文ブォエンマー 美玲メイリンのコンビ、チョウ 麗華レイホーリーウ 魅音ミオンのコンビが同じように砲台を目指している。


 敵の砲台は、深い縦穴の中に隠されていた。


 その縦穴の周囲には、グレーザー砲が配置されていて上空からは迂闊には近づけない。


 遠距離から縦穴の中に砲弾を撃ち込んだが、効果はなかった。


 どうやら、縦穴の底には溶岩洞窟があるらしく、砲台はその中に隠れているようだ。


 そこで衛星の反対側に宇宙機を降下させて、月面スレスレの高度を進んで縦穴に近づいて攻撃する作戦を取る事になった。


 すでに僕達の宇宙機からは電磁砲レールキャノンが外されて、ミサイルが取り付けられていた。


 ミサイルの弾頭に入っているのは陽電子ポジトロン爆弾。このミサイルを縦穴に撃ちこみ、溶岩洞窟ごと崩して砲台を埋めてしまおうというのだ。


「しかし、うまくいくかな?」


 僕の呟きに、隣を飛んでいるアーニャが答える。


白龍パイロン君。不安なの?」

「いや、この程度の爆弾で溶岩洞窟が崩れるかなと思って」

「溶岩洞窟が無理でも、縦穴を崩してしまえば砲台はもう上に出てこられないわ」


 僕の横に王のアバターが現れた。


「今、俺と馬が砲台の前に着いた。砲台は山の向こうにある。そこでアーニャ、今から、俺一人で突撃してみようと思うが許可をもらえるか?」

「待って! あなた一人で行くなんて無茶よ」

「無茶は分かっている。だが、敵が俺達の攻撃法を予想していなかったとは考えにくい。だから、このまま俺一人で突撃して、敵がどんな防御をしてくるか見てくれ。つまり俺のやられっぷりを見て、それを参考に対策を立てろって事だ」

「分かったわ。有人機だったら、絶対に許可できないところだけど」

「まあ、敵がなにも対策していなくて、俺が美味しいところを全部持っていく可能性もあるけどな。とにかく、俺が突撃するから俺の機体から送るデータを受け取ってくれ」


 王の機体が山の稜線を越えた。

 

 電磁砲レールキャノンの隠れている縦穴の入り口が丸見えになる。


 しかし、向こうから攻撃はない。


「おいおい、マジかよ? 本当に対策してなかったのか? ミサイル撃っちゃうぞ。いいのか?」


 アバターはないが王の軽口が、通信機から流れてきた。


「照準セット。ミサイル発射!」


 次の瞬間、周囲から無数のレーザーが王の機体に襲い掛かった。


 やっぱり待ち構えていたのか。


 王の機体は大爆発を起こした。

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