第300話 レーザー地雷(天竜過去編)
敵が防御を固めていた事は分かった。問題は、
「どうやら、これの様ね」
王から送られて来たデータを分析していたアーニャが、兵器カタログから探し出した一つのデータを僕らに見せた。
「月面用レーザー地雷。月のレゴリスの下に埋め込んで使用するレーザー兵器よ。敵が近づくと、レゴリスに隠れていた砲身が出てきて低出力レーザーで攻撃するの。縦穴の周囲に、これが多数埋め込まれているようね」
「全員で突撃していたら、全滅していたわね。デブのおかげで助かったけど、ここをどうやって突破するの? アーニャ」
「無理。こんなの、突破できない」
「無理って何よ! デブがせっかく自分を犠牲にしたのよ。このままじゃ、あいつが浮かばれないわ!」
だから死んでないって……
「諦めるなんて言っていないわ。今、対策を考えているのだから……あなた達も、何かいいアイデアがあったら言ってみてよ」
「しょうがないわね。それなら私がいいアイデア出してあげる。相手は数が多いけど、武装は所詮低出力レーザー。レーザー攪乱膜で防げるわ」
「どうやって、攪乱膜を張るの?」
「どうやってって……装備の中にレーザー攪乱膜があったと思ったけど……」
「ここで攪乱膜は使えないわ」
「なんで?」
「攪乱膜は大量の金属箔を空中に滞空させる事ができる条件がないと使えないの。濃密な大気があるか、無重力状態じゃないと無理なのよ」
「ええっと……」
「つまり、ある程度強い重力があって大気圏のない天体の上では、レーザー攪乱膜は張れないわ。まったくできないわけではないけど、攪乱膜を形成する金属箔は重力に引き寄せられて数秒で月面に落ちてしまう。際限なく金属箔か微粒子を空中に噴出させる方法があればいいけど、私達の装備では無理ね」
「もう! それなら、先に言ってよ! 恥かいちゃったじゃない!」
「別に恥をかかせるつもりはなかったわよ。あなたが、私の思いつかない方法を考えたのか思っただけ」
「嘘よ! 私に恥をかかせようとしたのでしょ。いいわよ! どうせ私は馬鹿ですようだ!」
ああ、いじけた。面倒くさい子だな。
趙 麗華のアバターは、そのまま
「ふえーん! 魅音! アーニャが苛める」
「よしよし。誰も麗華を、馬鹿なんて思っていないよ」
僕は少し思っていたけど……そんなのと友達でいられる、柳 魅音が女神様に見えてきた。
不意に女神様が……いやいや、柳 魅音がアーニャの方を振り向く。
「ねえ、アーニャさん」
「な……何? 私は別に……」
「攪乱膜というのは、悪くないと思うのです」
「そりゃあ、別に悪いとは、言っていないけど……」
「際限なく微粒子を噴出させればいいのですね?」
「そうだけど、方法があるの?」
「はい」
「どうやって? 私達の装備では……」
「装備はいりません。大自然の力を借りるのです」
「大自然?」
大自然て? 柳 魅音は何を言いたいのだ? こんな空気も水も無い月面で……
彼女はさらに話を続けた。
「今、私達は月の夜の側にいます。でも、もうすぐ夜明けです」
夜明け? それが何か……そうか!
「
「はい。
月面では、太陽光の当たる昼の部分と当たらない夜の部分の境目では常に砂嵐が起きている。大気のない月で砂嵐などあるはずないと思うかもしれないが、月面の昼と夜の境界面では、静電気によってレゴリスが舞い上がる現象が起きているのだ。この砂嵐は、
つまり柳 魅音の作戦はその砂嵐に紛れて攻撃しようというのだ。
「だけど、レゴリスの砂嵐で、レーザーを遮れるかしら?」
アーニャの心配はもっともだな。
それなら、実験してみればいい。ここから東へ移動すれば昼と夜の境目、明暗境界線があるはず。そこでは常に砂嵐が起きているはずだ。
その砂嵐の中でレーザーを照射してみれば、実際にどの程度威力が落ちるか確認できる。
効果があるなら、僕達は砂嵐と一緒に移動してここを攻撃すればいい。
それに、これなら太陽を背にして戦える。
その事を提案すると……
「いいと思うけど、ここを空にしない方がいいと思うな」
そう言ったのは
「敵は、ここに私達が来ている事はもう気が付いていると思う。その私達がいつまでも攻撃してこないでいると、東へ移動して攻撃してくる事に気づかれるかもしれないわ」
なるほど……
「その場合、月面車なり宇宙機なり、移動できる攻撃手段で、背後に回り込まれる危険がある。だから、一人か二人はここに残って、山の稜線から牽制攻撃をかけ続けていた方がいいと私は思うわ。まあ、敵に宇宙機や月面車が残っているか分からないけど」
アーニャは少し考えてから答えた。
「確かに、敵に宇宙機や月面車がないと考える方が甘いわね。私達が東へ移動した事に気が付いたら、絶対背後に回り込まれる。馬 美玲さん、柳 魅音さん。あなた達は、ここに残って牽制攻撃をかけてもらっていいかしら?」
「もちろん、自分で言いだしたことだし」「牽制役は、私たちにまかせて下さい」
「
僕はもちろんOK。趙 麗華は……
「私も……攻撃側でいいの?」
「もちろんよ。それとも、私と一緒に行動するのは嫌かしら?」
「べ……別に嫌じゃないわよ。アーニャが私と行動したいなら、付き合ってあげるわよ」
「よかった。私、あなたとは友達になりたいと思っていたの」
「そ……そうなの? 私は……アーニャとはもう、友達のつもりでいたわよ」
こうして僕達三人は東に向かって飛び立った。
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