第289話 悲しくも迷惑な恋(天竜過去編)
「ところで、今の人は、なんでおデブのお兄さんと喧嘩しているのですか?」
「それはだね……」
僕は手短に説明した。
「なるほどね……だいたい分かりました」
「本当に困ったものだね」
「恋ですね」
「は?」
「恋ですよ。あの、趙 麗華というお姉さん、恋をしていますね」
「なんでそうなるの?」
「恋は人を盲目にするのですよ」
「それは、知っているけど……」……僕だってミクちゃんへの恋心が無かったら、こんな船に乗り込んだりしなかったろうし……
「趙 麗華さんが、誰に恋をしていると?」
「話を聞いてみると、趙 麗華さんは、あのおデブのお兄さんをなんとか覗き魔に仕立て上げようとしているじゃないですか。いったい、誰にそう思わせたいのか?」
「さあ?」
「ここにはいない、
「思わせて、どうすんの?」
「話聞いたところでは、柳 魅音さんとおデブのお兄さんは、いい雰囲気だったそうじゃないですか? それを邪魔したかったのでしょう」
「え? という事は……」
「そういう事ですね」
趙 麗華は
そういう人もいるんだよ。そういう人も……
しかし、同性愛者同士だったらそれでいいかもしれないけど、柳 魅音がノーマルだったら……たぶんノーマルだろう。ノーマルだから、
そうか! 趙 麗華も、それが分かっているんだ。分かっているからこそ、自分のものにならない柳 魅音を誰にも渡したくない。
それで彼女に近づく男を妨害しているんだ。
悲しくも、迷惑な恋だな……
先頭にいたアーニャが振り向いた。
「私もそんな気がしていたわ」
「ありゃあ、アーニャさんも気がついていましたか。やっぱり、恋を知らないお子ちゃまには分かりませんよね」
「ちょっと! 恋を知らないお子ちゃまって僕の事?」
「ありゃ。ごめんね。馬鹿にするつもりは無かったわ」
「馬 美玲さん。
「え? そうなの」
僕は《イサナ》との交流会の事を話した。
「ああ! あの時、そんな事が。私も行ったけど、日本船のはずなのに白人のけったいなお兄さんがいてナンパされました。断ったけど」
「馬さんも、あそこにいたんだ」
「ええ。白人のお兄さんをふった後、カーテンの後ろからハンサムさんが出てきて……声をかけようとしたけど、《イサナ》の女の子達のガードが固くて」
「その人知っているよ。
「ああ! 私も見ていた」
「その人の横に、浴衣着た女の子がいたでしょ」
「いたねえ。可愛い女の子が」
「僕、あの女の子にプロポーズしたんだ」
「プ……プロポーズ!? 告白通り越していきなり」
「うん。お友達でいましょうって言われちゃったけど……」
その時、警報が鳴った。アーニャが真剣な眼差しで振り返る。
「敵が撃ってきたわ」
着弾まで三十秒しか無かった。
「馬 美玲さん、白龍君。この弾丸は、私が受け止める。二人とも後は頼むわね。上手く行けば、あなた達二人ともレーザーの射程内に飛び込めるわ」
「分かった。アーニャ」「私たちに任せて」
アーニャ機が、エアバックを展開した。
レーダー画面の中で爆散円とアーニャ機が交差する。
アーニャのエアバックが、たちまちのうちに吹き飛んだ。
「スラスターをやられたわ。馬 美玲さん。私の機体をレーザーで排除して」
「分かった」
「後は頼むわ。白龍君を守って」
「任せて」
「白龍君。《朱雀》で待っているわ」
アーニャのアバターが消えた。後に残った球体宇宙機に向けて、馬美玲はレーザー撃つ。
レーザーの命中した箇所がガス化して、その反動で球体宇宙機は離れていく。
敵の方は、まだ次弾を撃ってくる様子はない。映像を拡大して見ると、敵の護衛機が一機大破している様子が見えた。
青龍隊か白虎隊の生き残りがやったのだろう。 僕達以外にも、戦っている人がいるんだ。
「
「え?」
「君はいきなりプロポーズしちゃったのだろ。ミクちゃんも動転しちゃって、あんな事言ったのじゃないかな? 結婚はともかく、おつき合いまで断る気は無かったと思う」
「そうだね。僕も、なんかそんな気がしていたんだ」
「だから、《イサナ》が来たら、もう一度コクってみなよ」
「うん。そうする」
「しかし、君も大胆だね。いきなりプロポーズなんて」
「実は、僕も最初はプロポーズまでする気は無かったのだけど……あの時舞い上がってしまって……」
「言ったでしょ。恋は人を盲目にするって。君はその時、盲目だったのだよ」
「そうだよね」
確かにあの時、『結婚してください』と言ってから『しまった! なんて事を』と思っていた。断られて当然と……
「章君」
「なに?」
「もうすぐレーザーの射程に入る。私の横に並んで」
「分かった」
僕の機体は、馬 美玲の機体の横につく。
同時に僕達は、
向こうはまだ撃ってこない。
「白龍君。分かっていると思うけど、射程に入ったら向こうからもレーザーを撃ってくるわ」
「分かっている」
「攻撃に使える時間はあまりないわ。確実に倒すために、攻撃を一機に集中しましょう」
「うん」
「どれを狙うか君が決めて」
「分かった」
映像を拡大した。
球形陣の中心にいる五機のレーザー機。その中で、一番手前にいる機体に照準を合わせる。そのデータを馬 美玲に送った。
「あいつね」
「うん」
彼女も照準を定めた。
射程に入ると同時に、僕達はトリガーを引いた。
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