第221話 ラウンジ

 プリンターをシェルターの電源に繋いでナノマシンの製造を開始した。製造終了には、四時間近く掛かるらしい。


 プリンターの作業を待つ間に、僕達はシェルター内にあるラウンジのような部屋に案内され、そこで作業終了を待つことになったのだ。


「あの……」


 居心地悪そうに、ミーチャが僕の前に立ってモジモジしている。


「僕は……いつまで、こんな恰好していなくちゃいけないのでしょうか?」


 青いワンピースを纏ったミーチャのその姿は、どう見ても美少女……でも、男だ。


「しょうがないだろ。帝国軍の軍服で、いらぬ誤解を招きたくないからな」

「でも……こんな服嫌です」

「なによ。あたしの服が、気に入らないの」


 ちなみに、このワンピースはミクの服。


 僕の服ではサイズがあわないし、プリンターで作ろうとしたが、プリンターは昨日からロボットスーツの交換部品作りで空きがない。そうしたらミクが『あたしの服貸してあげる』と言って、ミーチャにこのワンピースを着せたのだ。


「でも、僕は男ですよ」

「いいじゃない。可愛いんだから」


 確かに可愛い……いかん! 男の娘趣味に目覚めそうだ。


「ミク。一応、聞くがジーパンは持っていなかったのか?」

「も……持っていないよ」


 では、なぜ目線を逸らす。


 ミクの背後で、香子がミクのリュックを探っていた。


「ミクちゃん。ジーパンあるじゃない」

「ちちい! 見つかったか」


 残念そうに、舌打ちするミク。


 ミーチャに着替えをさせてから、僕達はソファに腰かけ、僕がこの惑星に降りてから、ここに来るまでの経緯を香子に話した。


「そう。大変だったわね」

「でも、楽しかったよ」

「そう。それで、海斗。ミールさんの事は、どう思っているの?」

「え? ええっと……」

「初めて会った時に、一目ぼれでもしたの?」

「な! な! な! なにを……」

「そのリアクション見れば図星ね」

「ええっと……」

「別に私に遠慮することないわよ。それとも、私とミールさんに二股かけようとでも?」

「そ……そんな事は……ないぞ」

「どうかしら?」

「二股なんて、かけるつもりはないぞ! ただ、どっちも好きになってしまったから……あわわ!」

「とうとう白状したわね」


 いかん! 口が滑った。


「つまり、海斗は私かミールさんか、まだ迷っているのよね」

「そう……なるのかな?」

「じゃあ、まだ私にもチャンスがあるということね」

「ちょっと待て! 僕のコピーを作るのでは?」

「作るわよ。でも、それには越えなきゃならないハードルがあるのよ」

「ハードル?」

「まず。カルカシェルターの人達からカートリッジを分けてもらう。これは簡単だと思うけど、次にそのカートリッジを、衛星軌道上の母船に届けなければならない」

「でも、それはそんな難しいことでは……」

「次に船長の許可を取らなきゃならない。そのためには」


 香子はボールペンを取って僕に突き付けた。


「海斗に入れ墨タトゥーを入れなきゃならない」


 できればそれは遠慮したい。


「分かった。とにかく入れ墨タトゥーの話は、衛星軌道にカートリッジを届けてから考えよう」

「問題を先送りにしただけじゃないの」

「いいだろ。しばらくしたら、僕も決心がつくかも知れないし……」


 つかないかも知れないけど……


「それより、香子。シーバ城を脱出してから、今までどうしていたんだ?」

「そうか。まだ話していなかったわね」


 そして、香子は経緯を話し始めた。


(第八章終了)


次回から香子の芽衣の身に今まであった経緯を騙る過去編が始まります。

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