第190話 分身の術

 ロボットスーツを三時間活動させられるだけの電力を蓄えた超電導物質に、プラズマが当たればどうなるか?


 奴は、そこを理解していなかったようだ。


 外部電源にプラズマが直撃したのを確認すると、僕は真っ先に爆風を凌げそうな物陰を探して飛び込んだ。


 外部電源が大爆発したのは、その直後。

 

 残時間 二百七十秒


 いけない。ロボットスーツを省電力モードに……これで、しばらく電力は持つ。


 物陰に隠れたまま、ドローンからの映像を見ていると、エラと三人の騎兵も爆風を受けて落馬していた。


 そのまま死ぬか重症を負ってくれないかと期待したが、それは甘かったようだ。


 二人の騎兵は動けなくなったが、エラはしっかりとした足取りで立ち上がった。


 大した怪我を負った様子もない。

 

 ん? 生き残っていた一人の騎兵が、エラの背後から忍び寄っていた。


 フリントロック銃をエラに向ける。


 なるほど、これが後ろ弾という奴だな。


 エラへの日頃の恨みを晴らす絶好のチャンスというわけだ。


 今、撃てば目撃者はいない。エラはさっきの爆発で死んだと報告すれば済むと考えての行動だろ。


 日頃から部下を苛めて、恨みを買っていたエラには相応しい最後だな。


 いやダメだ。あの騎兵、手が震えている。


 あれじゃあ、弾は当たらない。


 案の定、弾はエラを掠めただけだった。


 当然、怒り狂ったエラの電撃を浴びせられ騎兵は倒される。


 だが、暴行はそれで治まらなかった。

 

 エラは騎兵の鎧を剥ぎ取り、直接殴り付けた。


 鎧で分からなかったけど、あの騎兵、ミーチャと同じ年頃の少年。


 顔も女の子のように可愛い。


 あいつの趣味か。


 泣き叫ぶ少年に、エラはさらに暴行を加えた。


 こ……これは酷すぎる。


「止めろ! エラ・アランスキー! お前の相手は、この僕だ!」


 エラは、僕の方をふり向いた。


 その手は、泣き叫ぶ少年の髪を掴んでいる。


「なんだ。誰かと思えばカイト キタムラじゃないか。生きていたのか」

「その子から手を離せ」

「それは出来ぬな。こいつは、上官に銃は向けた。反逆罪だ」

「それはお前が、その子を苛めるからだろう」

「笑止。軍隊で部下を苛めるのは、上司の義務ではないか」

「下らない冗談に、付き合う気はない。今すぐ、その子を離せ。さもなくば……」

「さもなくば、どうする? 聞くところによると君は、女は殺さないそうだな。私は女だが、どうするのだ?」

「それには、若干訂正がある。僕が殺さないのは、可愛くて若い・・女だ。お前はそれに、該当しない」


 途端にエラは怒りの形相を浮かべた。


「き……貴様……今『若い』のところを、強調したな!」

「それは、気のせいだ」

「黙れ!」


 エラは僕に向かってプラズマボールを放つ。


 しかし、プラズマボールがぶつかる寸前にロボットスーツは消滅した。


 すぐに別の場所に、ロボットスーツが出現する。


「どこを見ている。僕はここだ」

「おのれ。何時の間に」


 エラは、再びプラズマボールを放った。


 しかし、今度もロボットスーツはプラズマボールがぶつかる寸前に消滅。


「どこを狙っている」「ここだここだ」


 二体のロボットスーツが現れた。


「こ……これは?」


 どちらを攻撃すべきか、エラが迷っている間にロボットスーツは十体に増えた。


「そうか! これは高速で動き回って、残像を作る分身の術だな」


 んなわけない。


 時代劇愛好者らしい思い違いだが、本物の僕は、さっきから物陰に隠れている。


 さっきから、エラが戦っているのは、蛇型ドローンが投影している立体映像だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る