第187話 誘き出し

 轟音を立てて、三機の菊花型ジェットドローンが飛び立った。


 制御は、すべてPちゃんに任せてある。


 僕はダモンさんの方を振り向く。


「ダモンさん。ここの守りをお願いします」

「任せておけ」


 僕はロボットスーツを装着してバイクに跨った。


 サイドカーにはミールが乗り、その膝の上にはミーチャの分身体を座らせている。


 バイクの後部シートは、ロボットスーツの外部電源が邪魔でミールは乗れなかった。


 それでサイドカーに、ミールとミーチャの二人乗りという事になったわけだ。


「行くぞ」


 スロットル全開……にしたのだけどバイクのスピードがあまり上がらない。


 ううん、やはりロボットスーツが重すぎたか。


 廃墟に囲まれた道路を、バイクはゆっくりと進んでいた。


「カイトさん。ドローンが攻撃を開始しました」


 サイドカーに設置したモニターを見ながらミールが報告してきた。


「エラは出てきた?」

「出てきました。プラズマボールを撃ちまくっています」


 バイザーに映像を出したいところだが、バイクの運転をしながらでは危険すぎる。


「ドローンが一機やられました」


 ここは、ミールに状況を伝えてもらうしかない。


「エラが馬に乗って、逃げるドローンを追いかけてきました。誘き出し、成功です」

「エラ以外に、帝国兵は?」

「騎兵が五人だけいます」

「全部引き離すのは、無理だったようだな」

「カイトさん。エラが薬を使いました。やはり隠し持っていたようです」

 

 問題は、いくつ隠し持っているか?


 無くなった? と思ったら、まだ一個隠し持っていたなんて事もありうる。


 なので、確実に奴を無力化する作戦を考えた。


 やり方は、ちと卑怯だが、戦いに卑怯もへったくりない。


 大事な仲間をこれ以上失うぐらいなら、いくらでも卑怯者になってやる。


 しばらく走って、廃墟の近くでバイクを止めた。


「ミールは、ここに隠れていて」 

「はーい。その子の目を通して、あたしは様子を見ています」


 ミールは、サイドカーに残ったミーチャを指差す。


「いざという時は、戦闘モードで頼むよ」

「はーい」

 

 ミールが廃墟に入っていくのを見届けてから、僕はバイクを走らせた。


 しばらく走ると、広場のようなところに出る。


 ここにエラを誘導して、決着をつける手はずになっていた。


 見回すと、広場のあちこちに、さっき飛行船タイプで運んだ蛇型ドローンがいくつも待機している。

 

 サイドカーのミーチャに、僕は顔を向けた。


「ミール。広場に着いた。ミーチャの分身を隠してくれ」

「はーい」


 ミーチャの分身は、サイドカーから飛び降りて近くの廃墟に隠れた。


 ロボットスーツの通信機を入れる。


「Pちゃん。広場についた。エラを誘導してくれ」

『了解しました』


 ドローンが敵を誘導してくるのを待つ間に、僕はバイクを隠した。


 サイドカーから、電磁石弾を取り出して腰に吊るす。


 爆弾ではない。さっきのドローンに着けていたのと同じ、重りの入った電磁石だ。


 エラのプラズマボールに対する切り札として持ってきた。


 ウェアラブルコンピューターを操作した。広場の各所、ロボットスーツが出現する。


 蛇型ドローンに着けていた立体映像投影装置によるものだ。


 バイザーにドローンからの映像を表示した。


 最初に菊花から映像。


 廃墟上空を低空で飛んでいる様子が映る。


 次に飛行船タイプからの映像に切り替える。


 今回の作戦中はこっちのドローンは攻撃しないと、成瀬 真須美は約束していた。


 だから、今回は飛行船タイプを投入したのだ。


 映像には廃墟の中の道を走る騎兵の姿が映っていた。


 騎兵の数は六。


 その中の一人は兜を着けていない。


 顔を拡大してみると、中年女性だと分かった。


 エラ・アランスキー。


 整った顔立ちの美女だが、その目は狂気をたたえている。


 エラは走りながら、プラズマボールを撃ちまくっていた。


 その時、ジェットドローンが轟音を立てて広場に着陸した。ドローンからPちゃんの声。


『ご主人様。エラ・アレンスキーは間もなくこっちへ来ます』


 いよいよ、来るな。

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