第186話 作戦会議
エラの薬がここにある。
という事は……
さっき、ドローンを落とすのに、エラはかなり魔力を消費したが……
「北村君。ちょっと壁を借りるわよ」
「え?」
「これは私のウェアラブルカメラの映像よ」
成瀬ドローンが、テントの壁……というか布に向かってレーザーを照射した。やがて映像が現れる。
プロジェクションマッピング!
映像にはエラの様子が映っていた。
食事中のようだが、物凄い勢いで大きな肉の塊に齧り付いてる。
足元には、すでに食べ終えた肉の骨がいくつも散乱していた。
「これは!?」
ミールに視線を向けた。
「魔力切れのようですね。しかも、食事で魔力を回復させようとしているという事は……」
ミールはテーブルに置いた薬袋を指差した。
「薬は、これで全部ということかしら?」
成瀬ドローンがテーブルに飛び乗る。
「そこまで期待しない方がいいわね。少なくとも一個か二個は緊急用に、肌身離さず持っていると考えた方がいいわ」
しかし……
「こんな大事なものの管理を、他人任せにするものかな?」
何気なく呟いた僕の疑問にキラが答えた。
「いや、あの女ならありうる。あいつは整理整頓が、まったくできない女だ。自分で薬を管理すれば、絶対にどこかで無くす」
「そうなの?」
「実際、私があの女の下にいた頃は、身の回り品々の管理は私がやっていた。その時あいつは『私が管理すると絶対に無くす』と自分で言っていたぐらいだからな」
「そうなんだ」
「一度あいつの部屋に行ったことがあるが、酷い部屋だった。『散らかっている』などという言葉では表現できない。得体のしれない物品が積み込まれ、人一人がやっと通れる空洞があるくらいだ」
それは、津嶋朋靖の部屋より酷いな。
まあ、それはともかく……
「そんな大事なものを管理させている子を、虐待したのがあいつの運のつきだな。奴が隠し持っている薬を使って回復できるのは、精々一回か二回。そこを突いて攻撃しようと思うけど、みんなの意見は?」
僕はミールに目を向けた。
「あたしは賛成です」
Pちゃんに目を向けた。
「私も賛成です」
キラを見た。
「私もそれでいいと思う」
ダモンさんを見た。
「基本的にはそれでいいが、わしはもう少し慎重にブランを練った方がいいと思う」
そうですね。
成瀬ドローンの目を向けた。
「慎重にやるのは賛成だけど、時間はあまりかけない方がいいわ。利敵行為になるので、今の居場所は言えないけど、後二時間ほどすると矢納と矢部がこっちへ来てしまう。エラは倒すなら、その前にするべきよ。それにエラは、今のところミーチャはどこかに隠れているだけで、近くにいると思っているわ」
「今が好機という事か」
「そうよ」
「成瀬さん。その前に一つ聞きたい事がある?」
「なあに? 北村君」
「何故、矢納とエラを排除しようとするのです」
「私が嫌いだから……と言ったら、信じる?」
「いいえ。あなたは、公私混同するよう人には見えない」
「やはり分かっちゃったわね。実はあの二人を粛清する命令が出ているのよ。私への命令者が誰かは言えないけど、あの二人は組織の中のガン細胞のような物。摘出手術が必要という事よ」
「そこまで言う? エラってかなり強いでしょ。帝国軍に必要な戦力じゃないの?」
「強いけど、必ずしも必要ではないわ。むしろ害悪の方が大きくなってきた。少年兵はミーチャみたいな孤児だけじゃない。中には貴族の子もいる。なので、エラに虐待された少年兵の親から抗議が殺到しているのよ」
そうだろうな。
「ミーチャも親はいないけど、ミーチャを護衛に着けてもらっていたお姫様が、ミーチャが虐待された事を知ってカンカンよ。弟のように可愛がっていたミーチャを自分から取り上げた上に苛めるなんてって」
「弟? 着せ替え人形の間違えでは?」
「あら? なんで知っているの?」
「本人が言っていた。お姫様が、僕に嫌な事をするって」
「ははは。私が入ってくる前に、聞いてしまったのね」
「ひょっとして、粛清を命令してのは、そのお姫様では?」
「ノーコメント」
図星だな。
「だけど、それならどうして裁判にかけないのです?」
「エラは性格があれだけど、一応英雄なのよね。ナーモ族やプシダー族の魔法使いを何人も倒しているし、リトル東京では多くのドローンを撃墜している。ロボットスーツも二体倒した。そんな英雄を裁判にかけると、色々と問題なの。だから、戦場でさり気なく戦死するように仕向けるのが私の受けた命令」
「エラは分かりましたが、矢納さんを粛清する理由は?」
「君も地球で、あいつのパワハラに苦労したのなら分かるでしょ。あいつの性格の悪さ」
「性格が悪いと殺されるんですか?」
「そういうわけじゃないけどね。詳しく言ってる時間はないけど、帝国内でのあいつの行いが、だんだん目に余るようになってきたのよ。しかし、おおっぴらに悪さをしたわけじゃないから、裁判にかけにくい。だから、エラのついでに粛清しようということになったの」
あの人はついでか……
「しかし、洗脳しているのに、どうして思い通りにならないの?」
「矢納は、洗脳なんかされてないわよ」
「なんだって!?」
「あいつは自由意思で、帝国に寝返ったのよ。君に復讐するために」
「そこまでする?」
「それだけ根性が腐っているのよ。帝国内でも評判悪いわ」
「まあ、二人を排除する理由は分かりましたが、そのために僕と手を組むことに関しては問題ないの?」
「必要なら、やってもいいと言われているわ」
「一応納得しました」
それから三十分後。僕らは作戦を開始した。
テーブルの上の成瀬ドローンが僕の前に歩みよる。
「それじゃあ、私は一度ドローンのコントロールを切るわね。あなた達が攻撃を開始したら、一般の兵士たちはエラから引き離すようにするから。それと、エラを誘導してほしいところとかある?」
僕は航空写真の一か所を指差した。
「分かったわ。エラがそこへ行くように仕向ける。では後程」
成瀬ドローンは座り込んで活動を停止した。
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