第177話 亡命希望

 プリンターから飛行船タイプのドローンが出てきた。


 今回ステルスにしないで、飛行船にしたのは相手に見つけさせるのが目的。これで、地上にいるエラを挑発して攻撃させ、エラの能力を分析する計画だ。


 だが、その前にこの飛行船でやる事が残っている。


「Pちゃん。次は、蛇型ドローンを十機用意してくれ」


 飛行船の気嚢にヘリウムガスを注入しながら、僕は言った。


「ご主人様、そのことですが」

「どうかしたのか?」

「炭素カートリッジが残り少なくなってきました。地上用ドローンなら多少重くなってもいいので、プラスチック素材の部分を軽金属などに変更していただけませんか?」

「そんなに、減っているのか?」

「その他にも、珪素やナトリウムのカートリッジが少なくなっています」

「まいったな……これ、空になったら再充填できないんだろ?」

「いえ。八十三のカートリッジの内、四十まではリトル東京の工業設備で、再充填可能です」

「そうか。でも、リトル東京に到着するまでは節約しないとな」

 

 蛇型ドローンの素材はプラスチックから、超超ジュラルミンに変更することにした。

 

 こうして作った蛇型ドローンを、飛行船に吊るしてドーム付近に降ろす予定。エラへの挑発は、その後にするはずだが……


「少し重くなりましたね」

「そうだね」


 十機の蛇型ドローンの素材をプラスチックから超超ジュラルミンに変更した結果、重くなりすぎてドローンに積みきれなくなった。


「しょうがない。ピストン輸送にするか」


 五機の蛇型ドローンを吊るして、飛行船ドローンは地表すれすれの高度を進んで行く。


 ドローンのコントロールはPちゃんに任せて、僕はエアコンの効いた車内に戻って汗を拭った。


「お疲れ様です」


 ミールは、紙コップを差し出してくれた。


 よく冷えた甘い飲み物が入っている。


 カルカのカフェで飲んだ飲み物と似た味だな。


「ミール。エラへの挑発役、キラにやってもらってもいいかな?」

「え?」

「帝国を裏切るのではなく、私的復讐だよ。キラだって、あいつに随分苛められたんだろ。言いたいことも、一杯あるのじゃないのかな」

「まあ、そのぐらいなら……でも、キラだとばれないようにしてほしいのです。平和になった後でキラが帝国に戻っても、裏切り者と言われて肩身の狭い思いをしなくて済むようにしたいのです」

「そうか。そうだね」

「あの、ちょっと、よろしいですか?」


 後部シートから、キラが口を挟んできた。


「どうしたの? キラ」

「裏切り者と呼ばれなくても、私はずっと帝国で肩身の狭い思いをして生きてきました。この先、帝国に戻っても、また肩身の狭い思いをして生きていくだけです」

「キラ。そんな事はないわ。あなたは帝国に戻れば、優秀な魔法使いとして迎えられるはずよ」

「そして、私の覚えた魔法は軍事利用される。私の魔法は武器として、ナーモ族やプシダー族、日本人に向けられる。そんな事は……耐えられない……」


 キラは、目に涙を浮かべていた。


「師匠。私は、亡命を希望します。帝国には戻りたくありません」

「え? ええっと……」


 ミールは助けを求めるように、ダモンさんの方を振り向いた。


「キラ。亡命しようにも、南方諸国はことごとく帝国に滅ぼされた。まあ、いずれ再建する予定だが、亡命の事はそれまでゆっくり考えてはどうだ? 国を捨てるというのは、簡単な事ではないぞ。亡命した後で、やっぱり国に帰りたいなど言っても手遅れになる」

「そうはならないと思います。帝国には、いい思い出は何もありません」

「今はそう思っていても、後で帰りたくなるかもしれん。それに何より、君の修行はまだ終わっていない。亡命するかはその時に決めてはどうかね?」

「はあ……それでは……」

「それとだ、ナーモ族の国が再建されたとしても、ナーモ族の帝国人に対する感情はあまりよくない。我々魔法使いは感情をコントロールする訓練を積んでいるが、一般のナーモ族だと君に敵意を向けてくるかもしれんぞ」

「う……そう言えば……」

 

 キラは突然、僕の方に目を向けた。


「ナーモ族に受け入れられなかった時は、リトル東京に連れて行ってくれないか?」


 おいおい……


「ううむ……どうしてもと言うなら母船の方に頼んでみるけど、リトル東京は僕も行ったことがない。帝国人を差別なく受け入れてくれるか分からないよ」

「それでもいい! 頼む」

「じゃあ、次の定時連絡で話しておく」

「感謝する」


 その時、運転席のドアがノックされた。


 外にPちゃんが立っている。


「Pちゃん。どうしたのだい?」

「ご主人様。困った事態になりました。ドローンが帝国兵と遭遇したのです」

「面倒だな。帝国兵は何人?」

「一人です」

「他にも近くにいないかい?」

「少なくとも、近くに熱源は感知できません」

「よし。報告される前に片付けよう」

「それが、そうもいかない事態に」

「ドローンが、もう落とされたのか?」


 フロントロック銃でも、気嚢に命中すれば破られるからな。


「いえ。戦闘にはなっていません」

「じゃあ、逃げられたのか?」

「いえ。とにかく映像を見て下さい。この事態はご主人様でないと判断できません」

「ん?」


 Pちゃんのアンテナがピコピコと動く。


 車内のモニターに映像が現れた。


 映像には一人の帝国兵が映っているが……さっきエラから暴行を受けていた少年兵!?


 逃げてきたのか?


 少年兵は、白いハンカチをこっちに翳し、今にも泣き出しそうな顔をして地面に膝をつき、ブルブル震えながら白いハンカチを掲げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る