第176話 サディスト
電撃を受けた少年兵は、泣き叫びながら地面をのた打ち回った。
『ふふふ……いい声だったぞ。もっと聞かせろ』
猟奇的な目をしたエラは、
『や……やめて下さい! 大尉殿!』
少年の懇願など意に介さず、エラは少年の背中に掌を押し当てた。
掌が輝く。
『うあああああああ!』
「ひ……酷い……いったい、なんのためにこんな事を……」
凄惨な光景を前にして、ミールは顔に怒りの表情を浮かべていた。
「師匠。エラ・アレンスキーは、趣味でやっているのです。私がいた頃も、少年兵の中から可愛い子を探しては、電撃で拷問をしていました」
僕には絶対に理解できないが、一部の男にとってはこういう事はご褒美になるらしい。
だが、こんな子供に、ご褒美のわけがない。児童虐待以外の何ものでもないだろ。
そうしている間も、少年兵の悲鳴は続いた。
だめだ……もう、我慢できない。
僕は運転席の扉を開いた。
ほぼ同時に、ミールも助手席側の扉を開く。
「二人とも、どこへ行くつもりだ?」
いつになく険しい声で、ダモンさんが僕たちを呼び止める。
「どこって……」「ダモン様……その……」
「まさか、あそこへ殴り込みをかけるつもりではないな?」
その、まさかを僕はやろうとしていた。ミールもおそらく、そのつもりだったのだろう。
「二人とも冷静になれ。あの魔法使いは強い。策もなしに行けば、返り討ちに遭うだけだ」
いったい……どうすれば……
『いい加減にしなさい! このど変態!』
スピーカーから別の女の声が響いた。
振り返ってモニターを見ると、エラに歩み寄っていく成瀬真須美の姿。
エラは、面倒臭そうに振り返る。
『なんだナルセ。私の楽しみを邪魔する気か?』
『あなたの狂った趣味に、とやかく言う気はありません。でも、そういう事をするなら、通信機のスイッチを切ってからにしてもらえませんか。さっきから、あなたの馬鹿声が電波に乗って、こっちの通信機に飛んでくるのですけど』
しまった! キラに持たせたマイクからの電波を受信されていたんだ。
今のところ成瀬真須美は、エラの通信機だと誤解しているようだが……
『通信機だと?』
エラは、怪訝な表情を浮かべる。
『そうよ。スイッチを切り忘れたのか、ワザとやっているのか知らないけど、こんなバカ騒ぎを人に聞かせるのは止めて頂けませんか』
『止めるもなにも、私は通信機など持っていないぞ』
『昨日、あなたに新品をあげたじゃないの』
『ああ! あれなら、壊れたから捨てたぞ』
『また、壊したの!? これで、いくつ目よ!?』
『うるさいなあ。そもそも簡単に壊れるような機械を渡すお前が悪い』
『あなたが、無意味に放電なんかするから壊れるのよ!』
『そう、ヒステリックになるな』
『その言葉、あなたにだけは、言われたくないわ!』
そうだろう、そうだろう。
横を見るとミールも『うんうん』と頷いている。
『だけど、通信機がないなら、なんであなたの声が電波に……』
やばい、気づかれるか?
『アレンスキーさん。通信機を、どこに捨てたのですか?』
『そんな事は忘れた』
『この近くじゃないの?』
『そうかもしれんな。しかし、あれは壊れているぞ』
『おおかた受信機能だけが壊れて、送信機能だけ生きているのよ』
『ん? そうなのか。その場合どうなるのだ?』
『あなたの声が電波に乗って流れているのです。ドーム内の敵にも聞かれているだろうし、こっちに向かってくる北村君たちにも聞かれているかもしれません』
僕達が来ることは読まれていたのか。迂闊に突入しなくてよかった。
というか、今『ドーム内の敵』と言ったな! という事は、やはりあのドームがシェルターの入り口で、まだ帝国軍は侵入できないでいるのだな。
『そうか。聞かれていたのか、こいつの悲鳴も』
エラは、怯えている少年兵に向き直った
『では、もっと聞かせてやろう』
止めてくれ!
『やめなさーい! いい加減にしないと、将軍に報告して軍法会議にかけてもらうわよ』
『軍法会議? こんな事で……』
『私は言ったはずよ。あなたが捨てた通信機のせいで、あなたがここで喋った事は敵に聞かれていると。あなたはそれを知ったにも関わらず、この場所から離れようとしない。ここで、うっかり軍の秘密を喋ったら敵に漏れる危険があるのに』
『分かった分かった。この場所を離れればいいのだろう。少年兵、私に着いて来い』
『待ちなさい。その子は置いていって』
『なぜだ?』
『今のところ、軍の秘密を漏らす危険が一番少ないのはこの子です。だから、この子に通信機を一人で探してもらいます』
『別にいいだろ。そんな通信機』
『よくありません。ここに通信機があるのを知らない人が、この場所でうっかり軍の機密を喋ってしまったらどうするのです?』
『そんな事あるわけないだろ』
『あったらどうするのです? その場合、ここに通信機を捨てたあなたの責任ですけど』
エラは面倒くさそうに首をふった。
『わかった。私は司令部に戻る。少年兵、通信機をさっさと見つけて戻ってこいよ』
エラがその場を離れると、成瀬真須美は少年兵を抱きしめた。
『いい事、時間をかけてゆっくり探しなさい。あいつのヒスが治まった頃合いに戻るのよ』
そう言い残して成瀬真須美も離れて行った。
案外いい人だな。でも洗脳されているのか……ううん……
いかん! いかん! 助けたいなんて言ったら、ミールとPちゃんに怒られるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます