第173話 偵察2
実はキラに周囲を回ってもらったのは、帝国軍をおびき出すため。
しかし、それを言ってしまうと、キラは帝国との戦いに関わったことになりミールから破門されかねない。
しないと思うけどね……
それでもミールとしては気分がよくないだろう。
だから、卑怯な僕に利用されたという体裁を整えてみたわけだ。
ややっこしいね。
まあ、この後は僕らが帝国軍を殲滅すればいいだけだが、その前に……
「師匠。分身を消しますか?」
「ちょっと待って。カイトさん。ドローンの映像を見せて下さい」
「ああ」
モニターの画像を、ドローンから送られて来るものに切り替えた。
ドームに沿って歩くキラが映る。
映像の範囲を広げた。
ドームから三十メートルほど離れたところにある瓦礫の陰に、十人ほどの帝国軍兵士がいるのが見える。
それに混じって、東洋人の女が一人いた。
顔を拡大……あれは!?
ドローン・オペレーターの
じゃあ、ミクにぶつかった飛行体は、あの女が操縦していたドローンだったのか?
「カイトさん。あれ日本人ですよね?」
「ああ、リトル東京から逃亡した四人の中の一人だ」
兵士の一人がキラに声をかけていた。
キラに付けたマイクで拾った声を翻訳にかけてみる。
『そこの兵士。そこは危険だ。我々のところへ来い』
「キラ。分身を逃がして。今、消してはダメ」
「なぜですか?」
「ここであなたの分身を消したら、カメラやマイクや通信機を、その場に残してしまいます。帝国兵ならともかく、あの日本人の女に拾われるわけにはいきません。消えるなら、それらを処分してからにしないと」
「分かりました」
映像の中で、キラの分身が走りだす。
その後を、帝国軍兵士達が追いかけ始めた。
キラに向かって何かを叫ぶ。
翻訳機にかけた。
『キラ・ガルキナ! なぜ逃げる?』
キラを知っている!?
「キラ。知り合いですか?」
「はい。師匠」
「困りましたね。口封じのために、殺しておかないと」
ミール……可愛い顔で、そういう物騒な事言うのは……まあ、どのみち、殲滅する予定だけど……
ああ! そっか。キラの知り合いだったら、殺しにくいという事だな。
「キラ。その知り合いというのは、あなたの親類縁者ですか?」
「いえ。違います」
「では、友達ですか?」
ミールの問いかけに、キラは答えずにうつむく。
どうしたんだろう?
「……」
しばらくして、キラは何かをボソっと呟いたが、声が小さくてよく聞き取れない。
「キラ。もっと大きな声で。よく聞こえません」
「……いませんから」
「え?」
「友達なんて……一人もいませんから」
車内の空気が、ズーンと重くなった。ミールも、さすがに気まずい表情をしている。
「そ……そうなの。でもね、キラ……あたし達は、あなたのお友達だから……」
「師匠、いいです。そんな、フォローされても、よけいに惨めな気分になるだけですから」
「……」
いかん。話題を変えないと……
「その人は、キラとはどういう関係の人なんだ?」
「指導教官……」
「指導教官!? という事は……」
「キラの食事を抜いたり、罵詈雑言を浴びせたり、暴力を振るったという……」
「うわあ! 師匠! その話はしないで下さい!」
「あら、ごめんなさい。でも……」
ミールが凶悪な笑みを浮かべた。
「これで、心置きなく、ぶっ殺せますわね」
「ちょっと……ミール」
「どうしました? カイトさん」
「僕には、心を憎悪に委ねるなと言ってたのに……」
「あら、大丈夫ですわ。『心置きなく』と言ったのは、口封じのために殺すのを躊躇する理由が無くなったということですわ。決して憎いから殺すのではありません。憎いけど……」
「そ……そうなの……」
「師匠、待って下さい! ぶっ殺すは良いですが、指導教官はかなりの強敵です」
「強敵?」
「雷魔法を操る人です」
「雷魔法と言っても、ピンからキリまであります。直接身体に触れて感電させる程度だったら、たいした事は無いのですけど……」
「光の玉を出します」
「光の玉?」
「これをぶつけられた者が、一瞬で黒こげ死体になってしまったのを見ています」
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