第174話  元指導教官

『キラ・ガルキナ! どこに隠れている?』

 

 キラの分身は、何とか追っ手をまいたようだ。今は、瓦礫の裏に隠れている。


『キラ・ガルキナ! 私を忘れたのか? 出来の悪いおまえの面倒を、散々見てやったエラ・アレンスキーだ』


「帝国語では『虐待』の事を『面倒を見る』と言うのかしらね?」

 

 ミールは呆れ顔だが……


「日本にもいるよ。そういう奴」

「え? そうでしたの? カイトさんの元上司のヤナとかいう人ですか?」

「そう。その人。ダモンさんのような人格者を、上司に持ったミールは幸運だよ」

「まてまて! わしはそんな誉められた人間ではないぞ」

 

 ダモンさんは慌てて否定するが、そう言われて肯定する人だったら人格者ではない。


「師匠。マイクとカメラ、通信機を隠しました」

「では、キラ。分身をそのまま消して」

「はい」


 キラの顔から緊張感が抜ける。今、分身を消したようだ。


「キラ、どうでした? 分身を操作した感じは……」

「疲れました。暴走させないように、ずっと緊張していました」

「今は、そうでしょう。慣れてくれば、呼吸をするように分身を操れるようになりますよ」


『キラ・ガルキナ。私から受けた恩を忘れたのか!?』


 スピーカーからは、まだエラ・アレンスキーとかいう指導教官の声が聞こえていた。


「キラ。この人から、何か恩を受けたのかい?」


 キラは僕の質問に首を横にふる。


「確かに、最初は『魔法の制御法』と言って、エラ・アレンスキーから、いろんな訓練を教えられた。しかし……師匠のところで勉強して分かったが、エラ・アレンスキーの教えは、まったくの出鱈目だった。あえて言うなら、役に立たない無駄知識を教えてもらったという恩を受けたな」


 恩というより怨だな。

 

『 ピーガガガ! キラ…… ビュイイイイ  ……て来い!』


 なんだ? スピーカーからノイズが……


 ドローンからの映像に視線を向けた。


 帝国軍の士官の姿が映像に現れる。


 あいつがエラ・アレンスキーか?


 しかし、何をやっているんだ?


 あちこちに放電をしているが……


 時々、プラズマボールも放っている。


 周囲の瓦礫が、電撃やプラズマボールを食らい砕けていく。


「何をやってるんだ? あいつは?」


 思わず僕が呟いた疑問に、キラは思いがけないことを言う。


「ヒステリーを起こしているようだ」

「ヒステリーって……女みたいに……」

「え? いや……あれは女だが……」

「女!? あれが!」

「エラという名前を聞けば、分かると思ったのだが……」

「そうは言われても、帝国人の名前はよく分からんし……」


 ハスキーな声をしていたが、よく見ると胸が膨らんでいる。


 顔を拡大してみた。歳は四十代ぐらいだろうか?


 顔は整っていて美人の部類には入るようだが、なんか恍惚とした表情をしていた。


 アブない人のようだな……

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