第166話 竜式神 1
まずいな。
今の場所から車を飛ばしても、三十分はかかりそうだ。その前に帝国軍は爆破を終えてしまう。
帝国軍兵士の数は百人ほど。この人数で、地下に入られたら厄介だ。
今、飛ばしている飛行船タイプのドローン二機は、測定機を搭載するために武器をすべて外してある。
攻撃には使えない。
今すぐ、この場所に送り込める戦力は……
菊花が一機あるけど、菊花の火力だけで、この人数を相手するのは難しい。
僕はミクの方を向いた。
初めて会ったとき、この娘は竜のような式神に乗っていた。あの式神と菊花の戦力を合わせれば、足止めぐらいはできるかもしれない。
「ミク。竜型の式神、すぐに出せるか?」
「リュウガタ?」
ミクはキョトンとしていた。
「この前、君が乗っていた式神だよ」
「ああ! あの子はオボロって言うんだよ。ミールちゃんのお薬使えば、すぐに行けるよ」
「オボロというのか。あれで、帝国軍のいるところまで、どのくらいで行ける?」
ミクは少し考え込んだ。
「うーんとね……一分くらいかな」
「頼む。今すぐ行ってくれ」
僕は数発の手榴弾をミクに渡した。
できれば、こんな物騒な物を子供に持たせたくはないのだが、今はそうするしかない。
「うん。分かった」
ミクは懐から出したお札を砂の上に置く。
ミールからもらった薬を飲んで呪文を唱えると、お札は瞬くに黄金に輝く龍へと変化した。
ミクが跨ると竜はフワリと宙に浮き上がる。
「ミク。くれぐれも言っておくが、空中から手榴弾を落とすだけだぞ。地表には絶対に降りるなよ。僕らが到着するまでの時間稼ぎができればいいんだから」
「うん、分かったよ。帝国軍を皆殺しにしておけばいいのね」
「だーかーら、無茶をするなと……人の話を聞け!」
僕の話など聞かず、ミクは飛び出して行った。
「まったく、近頃の若い者は……」
「君だって、近頃の若者ではないか」
ダモンさんから見たらそうなるか……て、呑気にしている場合じゃない!
「Pちゃん。菊花の発進準備を。武装は機銃と対地ミサイル」
「了解しました」
菊花が発進した後、ダモンさんとミールを車に乗せて僕達も出発した。
「ミクが、無茶する前に急がないと」
「カイトさん。あたし達が到着する前に、終わっていると思いますよ」
ミールの言う通りだろうな。問題は、どういう終わり方をしているかだ。
確かにアクロを呼び出せば、あの人数を壊滅させるのは難しくない。
だが、アクロを呼び出すために地上に降りたりしたら、ミクが撃たれる可能性もある。
いくらフリントロック銃でも当たれば死ぬ。
ミクを行かせるべきではなかったか?
後悔しても始まらない。
今は急がないと……
しかし、心は焦ってもスピードが思うように出ない。
砂漠の中にも道はあったが、所々砂に埋もれていて走りにくい。
トレーラーを外して走るか?
いや、トレーラーにはロボットスーツが入っている。
置いてはいけない。
「ご主人様。そんなに心配する事はありませんよ。菊花から見たところ、ミクさんは言い付けどおり地表には降りていません」
「なんだ。皆殺しというのは冗談か」
「いえ。それは本気のようです」
「なに?」
車を止めてドローンからの映像に目を向けた。
地表ではアクロが暴れ回り、帝国軍を潰しまくっていた。
しかし、術者のミクはオボロに跨り、安全な空中にいる。
僕はミール方を向いた。
「ミール。式神……分身を呼び出すのに、地表に降りる必要はないの?」
「さあ? あたしは空を飛ぶ分身は持っていませんけど……しかし、地表に降りる必要はないと思いますよ。シキガミと分身、多少の違いはあれ基本的には同じ物なので、憑代を空中から投下すればいけると思います」
「なんだ、心配して損した」
「ご主人様。そうも言ってはいられないようです」
Pちゃんが画像をレーダーに切り替えた。六機の飛行物体が近づいてくるのが見える。
これは?
「ドローンが接近しています」
「ドローンだって!? 帝国軍がなぜそんな物を」
「お忘れですか? リトル東京を裏切った者たちを」
そうか。あのリストにあった四人がこの近くにいるとしたら……ドローンはあいつらが飛ばしているとしたら……
矢那課長と、早々に再会することになるのか……憂鬱だな……
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