第167話 竜式神 2



「ドローンの機種は?」

「速度から見て、六機とも菊花と同じジェットドローンです」

  

 菊花の装備は対地ミサイル。しかも相手は六機。勝ち目はない。

  

 通信機を取った。


「ミク。聞こえるか?」


 すぐに返信が返ってくる。


『聞こえるよ。どうしたの?』

「ジェットドローンが、そっちへ向かっている。すぐに戻れ」

『そんなの、あたしが落としてやるよ』

「ダメだ! 引き返せ! 流れ弾に当たったらどうする!」

『ぶう! でもさ、ドローンがそっちまで追いかけてきたらどうするの?』

「え?」

『お兄ちゃんのロボットスーツは飛べないよ。ミールちゃんの式神も飛べないし。今、空を飛べるのはあたしだけ』

「それでも戻ってこい。ドローンは僕が何とかする」

『分かった』


 ミクが戻ってくるのをレーダーで確認した。


「しかし、ご主人様。ミクさんの言う通り、今の私たちにある航空戦力はミクさんだけです。ドローンも飛行船タイプ二機とジェット一機。しかも対空ミサイルを装備していません」

「分かっている。だからと言って、ミク一人でドローン六機を相手にできると思うか?」

「カイトさん。プリンターで新しくドローンを作るわけにはいかないのですか?」


 ミールの疑問も、もっともなのだが……


「ダメなんだよ。プリンターで菊花を出力するには五分かかる。それに水素燃料を詰めて武器弾薬を装備したりして、飛行準備が整うには三十分かかる。その前にやられてしまう」


 迂闊だった。


 出発前にせめて一機だけでも、菊花を作っておけば……


 いや、後悔先に立たずだ。


 今ある装備で何とかするしかない。


 地上レーダーのスイッチを入れる。


 この近くに、利用できそうな地形は……


 あった!


 北西方向三百メートル先に、切り立った岩肌のある岩山……

 

 高さは三十メートルほど……


 岩山の近くに車を止めると、僕はトレーラーに向かった。


「装着!」


 久々に着たロボットスーツ。シーバ城で受けたダメージは、完全に回復している。


「ご主人様。ロボットスーツと言えども、空を飛べなければ……」

「分かっている。でも、こいつの装甲ならドローンからの攻撃を凌げる」


「カイトさん」


 ミールが、十二人の分身達ミールズをつれてやって来た。


「あたし、空は飛べませんが、敵が矢の届く高さまで降りてくれば……」

「ありがとう。助かるよ」


 ミクから通信が入った。


『お兄ちゃん。ドローンはあたしに気が付かないで、アクロの方ばかり攻撃しているよ』

「なに!?」


 ドローンからの映像を出した。


 確かに、ジェットドローンは、六機がかりでアクロにミサイル攻撃を仕掛けている。


 ミサイルの攻撃で、さすがのアクロも傷を負っていた。


 左の角が折れ、右腕も吹っ飛んでしまっている。


 しかし……失った角も腕も、たちまちのうちに再生してしまった。


 一方でアクロの方も、空中にいる敵を攻撃する手段がなかった。


 互いに打つ手なし。


 だけど、ドローンの奴らは、なんでミクを攻撃しない……そうか!


「あいつら まだ術者が空にいる事に気が付いていないんだな。よし、ミク。気づかれる前に戻ってこい」

『うん。わかった……あれ?』


 なんか嫌な予感。


「どうかしたか?」

『あのね。帝国兵が空を指差しながらドローンに向かって何か叫んでいる』 


 ドローンに伝えようとしているんだな。攻撃者が空にいるって……しかし、ジェットドローンの騒音では、声なんか伝わるものか。


 しかし、レーダーを見ていると、二機のドローンがミクの方へ針路を変えていた。


 さらに別の二機がこちらの飛行船タイプの方へ針路を変える。


 声は聞こえないけど、兵士たちが空を指差して何かを叫んでいるのを見て、ドローンの操縦者は『空に何かがいる』と気が付いたな。


 レーダーを見れば、飛行船タイプドローンと未確認飛行生物がいるのはすぐに分かってしまう。


 鈍足の飛行船ではジェットドローンからは逃げられない。


 こっちは諦めるしかないな。


 僕は誘導ビーコン発信機のスイッチを入れて高々と持ち上げた。


「ミク。今、誘導ビーコンを出している。僕がいる場所は分かるか?」

『ん? ちょっと待って……あ! 見つけた。右手を上げているでしょ』

「そうだ。その近くに何がある?」

『ん? 大っきな岩』

「今からこの岩に登る。それを確認したら、こっちへ飛んで来い」

『うん。分かった。頂上より低い高度を飛んでいけばいいのね』


 勘のいい子だな。


「そうだ。よく分かったな」

『そしてあたしは、岩を掠めるように飛べばいいのね。お兄ちゃんは、追いかけてきたドローンを頂上から狙撃するのでしょ?』

「なぜ分かる?」

電脳空間サイバースペースでこういうゲームやった時、お兄ちゃんは似たような作戦を立てたんだよ』

「そ……そうか。分かっているなら話は早い」

『おとり役任せて』


 通信を切り、僕はPちゃんの方を向いた。


「Pちゃん。菊花は、ミクを追いかけている奴に向けてくれ。飛行船ドローンは諦める」

「しかし、菊花には空対空ミサイルが……」

「いや、向こうも空対空ミサイルを積んでいない」

「なぜです?」

「さっき、奴らはアクロに向かってミサイルを撃っていた。あれは間違えなく空対地ミサイル。奴らも最初から空中戦は想定していなかったんだ」

「分かりました。しかし、一対六では……」

「菊花は失ってもいい。ミクさえ無事なら……」


 僕は、分身達ミールズを伴って岩山に登った。

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