第165話 滅びた都市

 車の中はエアコンで快適な温度に保たれているが、外は灼熱地獄のようだ。


 先行させた飛行船タイプドローンからの情報によると、外気温は五十度もある。


「ご主人様。ドローンが廃墟上空に到着しました」

「分かった」


 強烈な日差しを避けられそうな岩陰に車を停止させた。


「それでは、映像を出します」


 Pちゃんのアンテナが、ピコピコと動く。


 車内にあるすべてのモニターに、ドローンからの映像が表示された。


「こ……これは……!?」


  助手席のミールが、驚愕の表情を浮かべる。


「ひどい」


 後部シートでも、キラが驚いていた。


 さすがにミクは無言だった。元々、原爆の恐ろしさを知っているからだろう。


 そこに表示されたのは、破壊され半ば砂に埋もれている都市。かつて、その場所に繁栄していた国の惨たらしい亡骸だ。


 この惑星には似つかわしくない高層ビル群 (と言ってもせいぜい五~十階程度の建物)が、全て同一方向になぎ倒されていた。


 辛うじて立っているビルもあったが、近づいてみると屋上の方は無事だが、熱線を浴びたと思わる壁面はボロボロになっている。


 それだけなら、ただの廃墟だが、これをさらに惨たらしくしているのは、あちこちに放置されている夥しい数の人骨。熱線に焼かれて即死した人は、まだマシだっただろう。ここで死んだ人達のほとんどは、放射線に蝕まれて死んでいったに違いない。


「Pちゃん。残留放射性物質は?」

「現在調査中です。しばらく、お待ちください」


 ミールが僕にしがみ付いてきた。


「カイトさん。カクとは、こんな恐ろしい兵器なのですか?」

「ああ。僕の国では、この兵器で二つの都市が破壊され、何十万もの人が亡くなった」

「ようやく納得できました。シーバ城の地下を爆破しなければならなかった理由が……こんな恐ろしい武器が隠されていたのですね」

「ああ」


 モニターに目を戻すと、辛うじて残っていたビルの屋上が映っていた。


「ご主人様。残留放射性物質、まったく検出されません」

「まあ、三十年も経っているからな……」

「引き続き、調査を続行します」


 ふいに今まで黙っていたミクが口を開く。


「お兄ちゃん。この町って、原爆落とされたんだよね?」

「そうだよ」

「なんか、変じゃない」

「何が?」

「ほら。広島の原爆ドームってさ、上から熱線を浴びて鉄骨だけ残して消えちゃったじゃない。でも、この町のビルって、屋上があんまし壊れていないよ」

「あ!?」

 

 そうか! 普通、核攻撃と言ったら、都市上空で爆弾を爆発させ、上空から熱線を浴びせるわけだ。


 当然、屋上が真っ先に破壊される。


 ところが、ここのビルの屋上は、熱線を浴びた痕があまりない。

 

 という事は……


 核は地上付近で爆発した!? しかし、なんのために?


 それじゃあ威力は落ちまくり……いや、待てよ。


 この時点で帝国には、核を搭載できるミサイルも飛行機も無くて、仕方なく地上から運搬して攻撃したのでは?


「Pちゃん。ドローンの高度を上げてみて。都市全体を見たい」

「了解しました」

 

 画面の中で、地表が遠ざかっていく。次第に、都市の全貌が見えてきた。建物は、同心円状に倒壊していた。


 同心円から遠ざかるほど、建物の損傷は少なく中心に近いほど破壊されている。


 そして同心円の中心付近にはクレーターがあった。


 ここが爆心地だとすると、やはり核は地表で爆発したようだ。


 上空で爆発したのなら、こんなクレーターはできない。

 

 考えている間に、航空写真が出来上がっていた。


「Pちゃん。爆心地付近の放射線量を測定しておいて」

「はい」


 そっちの方はPちゃんに任せる事にして、僕は航空写真を持ってミールとミクを伴い車を降りた。


 途端に砂漠の熱気が襲ってくる。


 トレーラーの上にいるダモンさんは大丈夫かな?


 ダモンさんだけ車に乗り切れなかったので、トレーラーの屋根の上に張ったテントに入っていてもらったけど……


 一応そっちにもエアコンはあるけど、ポータブルタイプだからなあ。この強力な熱気に対抗できるだろうか?


「なかなか、快適だったぞ」


 僕の心配をよそに、テントの中にいたダモンさんは涼しい顔をしていた。


 本人が言うには、元々砂漠の民なので暑いのは慣れっこなのだそうだ。

 

「これを見て下さい」

 

 僕は床の上に、航空写真を広げた。


「町は瓦礫と死体の山です。この中から地下の入り口を探すのは難しいと思います」

「ううむ……しかし、今でも出入りしている人がいるらしいからな……」


 ダモンさんは、しばらく写真を眺めながら考え込んだ。


「瓦礫の下は探すだけ無駄だろう。入り口があるとしたら……」


 ダモンさんは写真の一カ所を棒で指した。 


「倒れていない建物の中、あるいは……」


 今度は爆心地付近を棒で指した。


「運河の辺りだな」

「運河?」


 ダモンさんが指さした辺りは、砂があるだけで運河どころか池一つない。 


 いや、よく見ると、その辺りだけ周囲より低くなっているのが分かる。


「ここから、東へ数十キロ行ったところに大河が流れているのだ。そこから水を引いていたはずだ。カルカ国が滅びた後も、運河は残っていたはずなのだが……」

「三十年の間に枯れてしまったのですか?」

「いや、私が町で聞いた話では、運河は今でも残っていたはずだ」

「じゃあ、なぜ水が?」

「川が枯れてしまったのか? あるいは……」

 

 あるいは?


「最近になって、誰かが、上流の水門を閉めた」

「誰かって? 誰が……」

「帝国軍が地下への入り口を探すために、水門を閉めたのかも知れない」

「地下への入り口って、普段は水中にあるのですか?」

「詳しいことは知らないが、運河の水面下にも隠された出入口があると聞いている」

 

 潜水艦でも、出入りしていたのだろうか?


 端末のディスプレイに、ドローンの映像を出してみた。ドローンは、運河に降りていくところ。


 やはり、運河があったようだ。わずかだが、水たまりが残っている。


 川岸は、コンクリートで固められていた。


 このコンクリートの壁のどこかに、入り口があるのだろうか?

 

 それは程なくして見つかった。

 

 なぜ、分かったかって?


 帝国軍兵士たちが、爆薬をセットしている現場に遭遇したからだ。

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