第164話 ブラック上司2
「ご主人様。タイヤの交換終わりました」
いつものメイド服を作業服に着替えていたPちゃんが古タイヤを転がしてきた。
このタイヤは宿の主人に引き取ってもらい、何かに再利用してもらう事になっている。
この後、子供の遊具に使われるか、植木鉢になるかは分からんが……
「ご主人様、どうかされたのですか?」
「え? 何が……」
「顔色が、真っ青です」
「……」
言われてみて気が付いた。
僕は酷く動揺している。
二度と会いたくない男の名前を見たせいか?
実際、この惑星に来てからも、あの男の悪夢にうなされた事は何度もあった。
僕はまだ、あの時のトラウマを克服できていないんだ。
「ご主人様。ご気分が悪いのですか?」
「大丈夫だよ」
「とても、大丈夫には見えません。私には、ご主人様の健康を管理する義務が……」
「ほっといてくれ!」
「……」
あ!
一瞬だが、Pちゃんに目に恐怖が浮かんだ。
すぐに無表情になったのは、おそらく感情を
周囲を見ると、ミールもミクもキラも驚いた表情で僕を見ている。
みっともないところを、見られてしまった。
「すまない。怒鳴ったりして……」
「大丈夫です。私は、ロボットですから」
でも……感情があるのだろ……
「お兄ちゃん。本当にどうしたの? 女の子を怒鳴るなんて、お兄ちゃんらしくないよ」
ミクが傍らに寄って来た。
「本当になんでもないんだ。気にしないでくれ」
「でも……」
ミールが、ミクの肩にそっと手を置いた。
「ミクちゃん。ここはそっとしておいてあげましょ」
「でも……ミールちゃんは心配じゃないの?」
「心配ですよ。でも、人には触れられたくない事もあるのです。そうですよね? カイトさん」
「ああ、そうだけど。ミール……なぜ、分かった?」
「魔法使いですから」
なんか……答えをはぐらかされたような……
とにかく、このことは、はっきりさせないと……
「Pちゃん。今から、母船と連絡取れるかい?」
「可能です。どなたとの交信を希望いたしますか?」
「僕だ」
「は?」
「
ほどなくして、ウェアラブル端末に僕の姿が現れた。
『やあ。何かあったのかい?』
向こうの僕は、僕より多少大人びているような気がする。
やはり、
ん? 姿も多少老けているような気がする。
「気のせいかな? なんか、あんた僕より老けていないか?」
自分に向かって『あんた』というのも変な気がするが……
『ああ、その事か。
「そうなの?」
『好んで老化する奴もいないが、知ってのとおり僕は童顔だ。そのまま会議に出たら舐められる。だから、会議の時は、三十代に設定しているんだ』
僕って、そんなに見栄っ張りだったかな?
「という事は、会議中だったのか? 呼び出して悪かったかな」
『かまわないよ。ちょうど今、休憩時間に入ったところだからね。それに会議の内容は、君のもたらした情報だ』
「僕の? という事は洗脳の件?」
『それもある。それと《天竜》の消息だ。昨夜、乗組員と会ったそうだが……』
「ああ、それは……」
昨夜の経緯を話した。
『そうか。入れ違いになったか。残念だな』
「ところで、昨日洗脳された人達の名簿を送ってもらったのだけど、あんたはあれに目を通しているのか?」
『いいや。忙しかったので……なぜだ?』
「目を通してくれ。そうすれば分かる」
『ん?』
向こうの僕が、端末を操作する。
ほどなくして名簿が表示されたのが、こっちからも見えた。
『……』
しばらくして、向こうの僕の表情が硬直する。
『お……おい。これは矢納課長では? なぜ?』
「それを聞きたくて、呼び出したのだけど……」
『いや、僕も知らん。なぜこの人が?』
「同じの船に乗っていて、気が付かなかったのか?」
『いや、同じ船と言われても、千人分のデータがあるし、千人のデータが常に稼働しているわけでもない。実際に稼働しているのは、二百人ぐらいで、後のデータは休眠状態だ。この人のデータは休眠していたのかもしれない。仮に稼働していたとしても、イサナの
「おい……」
『分かった。このことは調べておく。分かったら連絡するよ』
「頼むよ」
そして、僕たちは出発した。
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