第162話 砂漠の戦い 2

 その様子を、離れた所からモニター越しに眺めている者たちがいた。


 液晶画面に映るロボットスーツを見つめながら一人の若い男が呟く。


矢納やなさんが、やられたようだな」


 男の左隣で画面を見ていた妖艶な美女が薄ら笑いを浮かべる。


「くくく、矢納は、我ら裏切り四天王の中でも最弱」


 美女の左隣にいた男が決然として言う。


「小娘ごときに倒されるなど、四天王の面汚しよ」

「こら! お前ら」


 三人の背後から声をかけたのは、ガリガリに痩せ細ったカマキリのような顔の男。


「誰が最弱だ!? 誰が……」


 矢納とは、この男のようだ。先ほどのドローンをコントロールしていた男である。女は侮蔑するような眼差しを矢納に向ける。


「やあねえ、何をムキになっているのよ。このぐらいの遊び心も分からないなんて、器の小さい男ね」

「なんだと!」


 激高した矢納は拳を握りしめ女の方へ向かっていく。慌てて若い男が間に入った。


「だ……ダメですよ。矢納さん。暴力は」

「ウルセー! 古渕こぶち! ロボットスーツがなければ真面に喧嘩もできない腰抜けは黙っていろ」


 古淵を呼ばれた男は、矢納に払いのけられた。


 もう一人の男が間に入る。


「ダメですよ。矢納さん。成瀬なるせさんに手を出したら……」

「喧しいぞ、矢部やべ! リトル東京でセクハラしまくったお前が、女に手を出すなとよく言えたものだな」

「いや……女に手を出すなと言っているのではなくて……成瀬さんは……」


 矢部と呼ばれた男の制止に耳など貸さず、矢納は成瀬と呼ばれた女に殴りかかる。


「このクソアマ!」


 だが、そのパンチはあっさりと躱され、次の瞬間、矢納は砂漠に背中から叩きつけられていた。


 成瀬の一本背負いに投げ飛ばされたのだが、矢納はそれを認識すらできないでいたのだ。


「だからあ、成瀬さんは柔道の有段者クロオビだから、手を出しちゃダメだって」


 砂の上でピクピクと痙攣している矢納を見下ろしながら、矢部は言う。


「そういう事は……先に言え……」

「だから、言おうとしたのに、人の話ちゃんと聞かないから……それと、さっきの戦いで分かりましたが、あのロボットスーツそろそろ限界ですよ」


 矢納はガバッと起き上がった。


「本当か!?」

「最後のドローンを落とす時、増力ブースト機構システムが機能していなかったのですよ。それで慣性制御イナーシャルコントロールで、無理やり落としたのだと思います」

「しかし、そんな故障は、すぐに治るのじゃないのか?」

「普通は、そんな故障起きません。ロボットスーツは着脱装置の中で最高の状態にメンテナンスされているので。なのに、こんな故障が起きたという事は、交換部品が無いのに、ダマしダマし使っていたからだと思います」

「よし! ドローン三十機を使って、波状攻撃をかけたかいがあったぜ」


 そんな矢納に、成瀬は冷たい眼差しを向ける。


「そんな面倒なことしなくても、最初から総力戦仕掛ければよかったじゃないの?」

「そんな事をしたら、あの娘を殺してしまうだろ」

「なんで? あんた、あんな娘を生け捕りにしたいの? まさか惚れた?」

「ちげーよ! あの娘は、ロボットスーツの調整ができるんだ。あいつさえ、生け捕りにして洗脳すれば、俺もロボットスーツを使えるようになる」

「別にあんたがロボットスーツ使えなくても、こっちにはロボットスーツの使い手が二人もいるのよ」

「それじゃあ、ダメなんだよ」

「なんで?」

「直接、俺の手であいつを……北村海斗を、ぶっ殺してやりたいのだよ」

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