第八章

第161話 砂漠の戦い 1

 灼熱の太陽に焼かれる砂漠。


 ここに生きる物の姿は見当たらない。


 だが、姿が見えないだけで、こんな逆境にも生きているものはいる。


 砂の下に身を潜め、ただじっと太陽が通り過ぎるのを待っている虫や小動物。数年に一度の雨を待ち続ける植物の種。


 そして……


 砂塵を巻き上げ、突き進む者がいた。


 その姿は、舞い上がる砂に隠れてはっきりとは確認できないが、人の姿をしているようだ。


 時折、砂漠に爆炎が生じる。


 その者は、ジグザグに動き回り爆炎を回避していた。


 上空には、多数の無人飛行機械ドローンが浮かんでいた。


 対角線上に四つのプロペラを配置したもっとも標準的なタイブ。


 爆炎はこれらドローンから放たれる小型ミサイルによるもの。


「イナーシャル コントロール マイナス2G」


 砂塵の中から、涼やかな女性の声が流れた。


 途端に、桜色にカラーリングされた人型物体が、砂塵を突き破り飛び出す。


 戦闘用ロボットスーツだ。


 反重力により、ロボットスーツは二十メートル毎秒二乗の加速で垂直上昇する。


 それに向けて、上空のドローン群が一斉に小型ミサイルを放った。


「チャフ」


 涼やかなコマンドが聞こえた直後、ロボットスーツの背嚢からレーダー波を乱反射させる微粒子が散布される。


 続いて、ロボットスーツは腰の短銃を抜いて周囲に火炎弾フレアをまき散らした。


 火炎弾フレアの放つ赤外線に騙され、ミサイルは本来の標的から外れていく。


 その間にロボットスーツはミサイル群とすれ違い、ドローン群と同じ高度に達した。


「イナーシャル コントロール2G 0G」


 ロボットスーツは空中に静止すると、背中のショットガンを抜きドローンに向かって構える。


「壊れなさい! 潰れなさい! ガラクタども!」


 涼やかな声とは裏腹な物騒なセリフを叫びつつ、ロボットスーツはAA12コンバットショットガンを乱射した。


 弾倉が空になるまで一薙ぎすると、ドローンのほとんどが落とされていた。


 残っているのは、わずか二機。


「ホバー!」


 ロボットスーツは、そのうちの一機に肉薄する。


「ブースト!」


 人工筋肉で増力されたパンチが、ドローンの薄い装甲を突き破る。


 機能を喪失したドローンは砂漠に落ちて行った。


 背後から飛んできた弾丸がロボットスーツに命中。


 磁性流体装甲リキッドアーマーがその貫通を阻んだ。


 弾丸を放ったのは、もう一機のドローン。


「ワイヤーガン セット  ファイヤー!」


 ロボットスーツの放ったワイヤー付弾丸がドローンに刺さる。


「ウインチスタート」


 ワイヤーが巻き上げられ、ドローンとロボットスーツが肉薄する。


「ブースト!」


 増力されたパンチが装甲を打ち砕く……はずだった。


 だが、増力されていない。


 かん高い金属音が鳴り響いたが、装甲にはヒビも入らない。


「く」


 ロボットスーツは、ドローンの上に這い上がってしがみ付いた。


「イナーシャル コントロール 2G」


 突然増加した重力によってドローンの高度は下がり始めた。


 何とか、高度を保とうと四つのプロペラをフル回転させるが、無駄な抵抗だった。


 ロボットスーツはナイフを抜いて、プロペラの一つに投げつける。


「イナーシャル コントロール 0G」


 コマンドを唱えるのと、プロペラが壊れるのと、ほぼ同時だった。


 ロボットスーツがドローンから離れると同時に、ドローンはバランスを崩して砂漠へ落ちて行った。


 やがて地面に激突して爆発を起こす。


 爆発によって巻き上げられた砂塵が治まったときには、ロボットスーツ以外に空中に浮いている物体なかった。




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