第158話 カルカのカフェ

「それじゃあ、私、屋台があるから帰るね。夜になったら、お店来てね」


 そう言って、レイホーは駆け去って行った。


「ご主人様。母船から通信です」


 Pちゃんがそう言ったのは、先ほど服を買った店の前まで来た時のこと。


「丁度いい。そこのカフェに入って交信しよう」


 こんな人通りの多いところで、プロジェクションマッピングを使うわけにいかない。


 ウェアラブル通信機も、立ち止まって使っていては通行の邪魔。


 カフェの中なら邪魔にならないだろう。


 ミールも入りたがっていたし、ミクも朝食まだだから、ちょうどいいだろう。


 しかし、携帯禁止の店じゃないだろうな?


 いやいや、地球じゃないのだから携帯そのものがないんだった。


 とりあえず、メニューを……なんだこりゃ? 翻訳ディバイスには『翻訳不能』のメッセージが……


 文字は南方ナーモ語のようだが……『意味だけなら翻訳可能。ただし、テータにある飲食物名と一致するものがありません』


 こりゃあ、あまり一般的ではないオリジナルメニューだな。


 何も知らない人が『白い恋人』と聞いても、それが北海道土産のチョコレート菓子だなんて分からない。それと同じことなんだろう。


「ミール。このメニュー見て、どんな物が出てくるか分かる?」

「え? ああ、もちろん分かりますよ」

「悪いけど、翻訳ディバイスが翻訳できないんだ。何か適当に冷たい飲み物を頼んでおいてくれないかな」

「いいですよ」

「それと、ミクに食事を。まだ朝ご飯食べてないし」

「はーい。カイトさん。飲み物ですけど、甘いのと、酸っぱいのと、苦いのとどれがいいですか?」

「じゃあ、甘いので」

「ミールさん。くれぐれもアルコール入りは避けて下さい」


 どうせ、今日は運転しないんだから少しぐらい……まさか?


「Pちゃん。ひょっとして、僕に酒を飲ませないように命令されているのか?」

「はい。ご主人様が飲み過ぎないように行動するよう、プログラムされています」


 芽衣ちゃん。余計なことを……


「お客様。何になさいます?」


 ウエイトレスが注文を取りに来た。


 対応はミールに任せて、僕は通信機を袖から外してテーブルの上に置く。


「Pちゃん。データを送って」

「はい」


 Pちゃんのアンテナがピコピコと動いた。


 通信機のディスプレイに電脳空間サイバースペースのミクが映る。


『お兄ちゃん。あたしのコピーは見つかった?』

「ああ、見つかった。やはり、誘拐されていたよ」

『やっぱりね。美少女は辛いわ』

 

 あまり辛そうな顔していないな。


「今、途中のカフェで食事をしているところだ」

『そう。宿に戻ったら、慰めてあげてね』

「いや。お仕置きを、検討している」

『ええ!! やめてよ! 可哀そう!』

「今回は許す。ところで、そっちから通信の呼びかけがあったのだが」

『そうそう。今、代わるね。芽衣ちゃん。お兄ちゃん出たよ』


 芽衣ちゃん?

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