第157話 ボラーゾフ屋敷崩壊2

 塀の中に入ると、中は瓦礫の山と化していた。


 ボラーゾフの部下たちが大勢倒れている。


 それをやった巨大な鬼は、まだ暴れていた。


 まだ、残っているボラーゾフの手下たちが、銃撃したり矢を射かけたりしているが、もちろんそんな物が通じるはずがない。


「きゃははは! 行けぇ! アクロ! もっと、やっちゃえ!」


 暴れさせている本人は、瓦礫の山の上で大笑いしていた。


「わしが、悪かった! 許してくれ」


 ミクの前で、でっぷりと太ったおっさんが土下座して詫びていた。


 どうやら、このおっさんがボラーゾフらしい。


「ん~どうしようかな? そうだ! オジさんの財産、全部くれたら許してあげる」

 

「そんなあ」


 ボラーゾフの背後に僕達が立った。


 僕達の姿に気が付いたミクはビクっと硬直する。


「お……お兄ちゃん!? どうしてここに?」

「ミク、なぜ、朝ごはんまでに、帰ってこなかった?」

「ええっとね……」


 ミクは少し考えてから、ミールが捕まえている小男をビシ! と指差した。


「こいつが悪いんだよ! こいつが、あたしをヒモでグルグル巻きに縛って、無理やり連れてきたんだよ」


 僕は小男に視線を向けた。


「ああ言ってるが、そうなのか?」


 小男は、慌てて否定する。


「め……滅相もない! お菓子をやると言ったら、ホイホイと着いてきました」

「そうか」


 僕はミクに視線を向けた。


「後で、お仕置きだな」

「ちょっと! お仕置きって何するの? お尻叩くの? お兄ちゃんのエッチ」

「大丈夫。それはPちゃんとミールにやってもらう」


 僕はミールとPちゃんの方を向いた。


「いいよね?」

「はい。ご主人様の命令とあらば」「あたしも喜んで協力しますわ」

「ああ! やめて! 喜んで協力なんかしないで!」

「じゃあ、なんでホイホイ着いて行ったりした? 小さな子供じゃないなら、誘拐だって分かるだろ」

「あたしだって、そのくらい分かるわよ。分かった上で着いていったのだから」

「なんで着いて行った?」

「だってさあ。ここであたしが助かっても、今度は他の子が狙われるじゃない。だったら、あたしが騙されたフリして着いていって、こいつらのアジトを突き止めて、アクロを呼び出して、こいつらまとめて成敗しちゃえば、もう子供が誘拐されるなんて事はなくなるじゃない」


 こいつらの目的はミクを人質にするつもりであって、営利誘拐ではないのだが、ミクはそう思っているようだな。


「なるほど。一理あるな」

「でしょ」

「でも、問題がある」

「なによ?」

「僕達が、どれだけ心配したと思っているんだ?」

「え? 心配していたの? あたしの事」

「当たり前だろ」

「ごめんなさい」


 意外と素直だな。


「でもさ、こいつらをやっつける事は、いいことでしょ?」

「いい事だけど、僕たちに連絡ぐらいできただろ」

「通信機、忘れてきちゃったもん」

「赤目は?」


 そう言った途端に、ミクは明後日の方を向いた。


 そのミクの背後にミールが回り込み、ミクのリュックの蓋を開く。 


 リュックの中から赤目が飛び出してきた。


「酷いよ! ミクちゃん。僕を閉じ込めるなんて」

「やだ。赤目。閉じ込めてなんかいないわよ。あんたが中にいるなんて気が付かなくて、蓋を閉めちゃっただけだから」


 赤目は僕の方を向いた。


「嘘ですよ。僕はミクちゃんに、こんな奴らに着いて言っちゃダメだって言ったのです。どうしても着いていくなら、僕は宿に戻って北村海斗様に報告すると。そしたら、僕をリュックに閉じ込めて……」

「ほう」


 この娘、虚言癖があるな。


「なぜ、僕らに黙ってやろうとした?」

「と……止められると思って……」

「止めたりしないから、今度からは一言いってからにしてくれ」

「うん。今度からはそうする」


 瓦礫の上に、へたり込んでいるボラーゾフの方を向いた。

 

「この娘が、ドロノフの娘というのは真っ赤な嘘だ。それは理解してもらえたかな?」

「り……理解しました。わしも騙されて……」

「だけど、僕らに意趣返ししようとか考えているだろう?」

「か……考えていません」


 こりゃあ、考えているな。


「Pちゃん。注射器持ってる?」

「はい。持っていますよ」

「じゃあ、こいつの首に注射して」

「はい」

「な……何をする?」


 分身達ミールズに押さえつけられたボラーゾフの首筋にPちゃんが注射した。


「な……わしに何をした!?」

「これが見えるかい?」


 ボラーゾフに、小さなカプセルを見せた。


 そのカプセルを空中に放り投げ、手元のスイッチを押す。


 カプセルは空中で爆発した。


「これと同じ物を、あんたの首に入れた」

「なんだと!?」


 嘘だけどね。


 注射器でこんな物は入らない。


 あの注射も、ただのビタミン剤だ。


「この惑星のどこにいても、僕はあんたを殺せる。次に僕らにちょっかいを出したら、容赦なくスイッチを押す。わかったかい?」


 ボラーゾフはコクコクと頷いた。


「ご主人様。ここで殺しておいた方がいいのでは」

「こいつを殺したら、どこかで生き残っているこいつの部下に狙われる。それなら、こいつを生かしておいて、報復を止めさせた方が安全だ」

「なるほど。確かにそうですね」


 時計に目をやる。


 分身達が消えるまで、あと十分ほど……


「よし、引き上げよう」


 僕たちは瓦礫の山を後にした。

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