第156話 ボラーゾフ屋敷崩壊1

「こいつらを捕えろ。殺してもいい」

「え? は……はい」


 小男に指示されて、門番は呼子を鳴らした。たちまち、門内からいかつい男たちがワラワラと出てくる。


 考える間もなく、僕は懐から二丁の拳銃を抜いていた。


「ミール! 戦闘モード!」

「はーい」


 ミールは薬を飲んだ。


「やっちまえ!」


 刀を抜いた男たちが、かかってくる。


 男たちが近づく前に、僕は拳銃を連射して次々と倒していった。


 しかし、数が多すぎる。


 一人が銃撃を掻い潜り、刀の間合いに入ってきた。


「アチョー!」


 男が刀を振り下ろす前に、レイホーのヌンチャクが顔面に食い込む。


 男はそのまま昏倒した。


「私に触るんじゃありません!」


 Pちゃんを捕まえようとした男が、電撃を浴びせられて倒れた。


 そんな機能もあったのか。


「ああ! ご主人様に買ってもらった服に汚れが! この! この! この!」


 倒れた男に、Pちゃんはゲシゲシと蹴りを入れ続ける。


「何をやっている! 早く片付けろ」


 小男の号令で、さらに門の中から男たちが出てくるが……


「うぎゃあ!」


 先頭の男の眉間に、矢が刺さった。


「お待たせしました!」

「援軍到着!」


 R18指定ギリギリの露出度高い鎧をまとった十二人の美少女軍団ミールズが戦闘に介入して、形成は一気に逆転した。


「な……なんだ? このエロい姉ちゃんたちは?」「どわわ!」「許してくれ」


 不死身の美少女軍団ミールズに抵抗する術もなく、男たちはたちまち制圧される。


 僕は小男の傍に歩み寄った。


「ひいい! く……来るな!」


 小男は後退ったが、すぐ背後の塀にぶつかり退路がなくなった。


「おい! お前、ドロノフの手下だったな。なぜ、ここにいる?」

「おまえの知った事ではない!」

「僕の仲間をさらっておいて、それで済むとでも思っているのか?」

「殺すなら殺せ。何も喋らんぞ」

「じゃあ、そうしようか」


 僕は拳銃を小男に向けた。


 安全装置を解除する。


 小男の顔が恐怖に歪む。


「だ……誰が言わないと言った。言う! 言うから、撃つな!」

「いや、おまえさっき『喋らんぞ』と言ったやん」

「喋ります。喋りますから、命だけは……」

「別にいいよ。どうせ、二重スパイか何かだろ。僕はドロノフの友達でもなんでもないから、おまえが二重スパイだろうと三重スパイだろうとどうでもいい。それより、なぜ僕の仲間を誘拐した?」

「仲間って……お前たちと一緒にいた娘の事か?」

「そうだ。僕らに、いったいなんの恨みがあってやった?」

「いや、おまえらに恨みはないが、あの娘は、ドロノフに対する人質にしようと……」


 何を言ってるんだ? こいつ…… 


「おまえ、あの娘を誰だと思っているんだ?」

「誰って? あの娘はドロノフの隠し子だろ? お前たちが、ドロノフに会わせるために連れてきたと……」


「はあ!?」


「ち……違うんで?」


 あ! 昨夜、ドロノフは、こいつに何かを囁いていたな。


「ドロノフが、そう言ったのか?」

「そうだが……」


 そういう事か。


 ドロノフは、この男が裏切っている事に薄々感づいていたんだな。


 昨夜、この男にミクを自分の娘だと偽情報を囁いた。


 それをまんまとと信じ込んだこいつは、僕らの後をつけて宿を見張っていたんだろう。


 そしたら、ミクが一人で散歩に出てきた。


 好機とばかりに、ミクを誘拐したんだな。


 ドロノフとしては、僕たちとライバル組織をぶつけて、潰し合わせようという魂胆だったのだろう。

 

「おまえ、裏切り者だって事、ドロノフにばれているよ」

「え? なぜ?」


 鈍い男だな。

 

「あの娘は、コピー人間だ。この惑星に、親なんかいない。お前はドロノフに騙されたんだよ」

「な……なぜ?」

「決まっているだろ」


 僕は小男の襟首を掴み、周囲を見せた。


 ボラーゾフの部下たちが、血まみれになって倒れている。


 新たに門から出てくる者もいるが、出てくる傍から分身達ミールズに倒されていた。


「お前たちに、あの娘を誘拐された僕達が、頭にきてこういう事をすることを期待したんだろうな」

「ええ!?」

「たぶん、ドロノフは、どっかで見張っていたんだろう。おまえがあの娘に手を出すかどうかを。手を出した時点で、おまえが裏切り者と確信しただろうな。もう、ドロノフの前に現れない方が身のためだぞ」

「そんなあ……」

「さて、どうする?」

「すみません! 娘さんはお返しします。なので、一つここは穏便に……」

「ふざけないで下さい」


 ミール(本体)が、小男の胸倉を掴んだ。


「騙されたとはいえ、あたし達に喧嘩を売ったのですよ。ただで許して貰えるとでも、思っているのですか?」

「ど……どうしろと?」

「誠意を見せなさい」

「誠意とは?」

「そのぐらい自分で考えなさい」


 小男の顔が恐怖で歪む。


「ミールさん。まるでヤーさんですね」

「ありがとう。もっと誉めて」


 いや、Pちゃんは誉めてないぞ。

 

 ドゴーン!


 突然、轟音が鳴り響いた。さらに塀の向こうから、悲鳴が沸き起こる。


 何があったんだ?


「あ! そういえば、あたし」

「どうしたんだ? ミール」

「ミクちゃんに、魔力回復薬を一粒渡しておきました」

「え?」


 Pちゃんの方を向いた。


「ミールの魔力回復薬って、地球人の体質に合うの?」

「先日分析しましたが、問題はありませんでした」


 という事は……


「使ったな」

「使いましたね」

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