第159話 そんな目で僕を睨むな!

 大きなメガネの女の子がミクと代わった。


『お……おはようございます。北村さん』


 そろそろ昼だけどな……


「おはよう」

『船長からの通達がありまして……それで私が……あ! 生データの北村さんは、私の事知りませんよね。私は……』

「ああ! 自己紹介はいいよ! 芽衣ちゃん」

『私の事、ご存じでした?』

「ブレインレターで見たから。それにPちゃん……P0371に君が託したメッセージも見たから」

『ええ!? あのメッセージ見ちゃいました! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!』


 しまった! メッセージを見た事は、黙っていればよかった。

 

 芽衣ちゃんの謝罪が延々と続いた。


「芽衣ちゃん。怒ってないから」

『本当に怒っていませんか?』

「怒ってないから……本題に入って。船長からの通達って?」

『実は、リトル東京ではカルル・エステスさんのコピーの他に、内通者が何人かいまして……そのリストを送りますので確認してください』


 ディスプレイに人名と顔写真、職種などの一覧が表示された。


 それぞれの左端に『内偵中』『逃亡』『捕縛』『死亡』と表示されている。


『昨夜の通信の後、捕縛中の人の脳内をスキャンしたところ、ブレインレターによる洗脳が確認されました』

「そうか。念のために聞くけど、洗脳された人を元に戻すことは……」


 芽衣ちゃんは悲しげな顔で首を横に振る。


『無理です』

「そうか」

『ここまで文明が退化した帝国が、まさかブレインレターを使っていたなんて、誰も予想していませんでした。残念ですが、被害者は一生拘束するしかありません』


 むごい運命だ……


『そのリストに『逃亡中』と書いてある人が四人いますね』

「ああ、いるね」

『その四人が逃亡したのは二ヶ月ほど前です』


 二か月前? それって、僕のシャトルが落とされた時……


『四人はヘリコプターとカートリッジと戦闘用ドローンを盗み出して行きました。今はどこにいるか分かりませんが、北村さんを狙っている可能性があります。くれぐれも気を付けて下さい』

「分かった。もしかして、僕のシャトルを落としたドローンは、こいつらが持ち出したのか?」

『そうです』

 

 そうか。カルルの他にドローンを操作していたのは、こいつらだったのか。


『それと、この写真を見て下さい』


 衛星軌道からの映像が表示された。


 映像が拡大されていく。


 砂漠に不時着したヘリコプターが映っていた。


「これは?」

『シーバ城を脱出した香子さんのヘリです。恐らく燃料が無くなって不時着したのだと思いますが、拡大してみると銃撃をかなり受けていたようです。もちろん、帝国軍のフリントロック銃では、装甲を貫通される事はありません。しかし、極超短波マイクロウェーブ用のアンテナが破壊されていたのです。香子さんが母船と連絡を取れなくなったのは、このためだったのです。だから、香子さんは生きているはずです。探して下さい』

「分かった。もちろん、僕はそのためにカルカに来たんだ」

『よかった。それと、私のコピーも一緒にいるはずなので、ついででいいですから探して下さい』

「分かった」

『できれば、急いでほしいのです』

「どうして?」

『これを見て下さい』


 別の衛星写真だ。


 砂漠の中を一本の川が流れている。


 川の周囲だけが緑に染まっていた。


 写真の一か所に×印。


『この場所に、帝国軍が駐屯しているのです。規模は二個中隊ほどですが』


 そんな大軍ではなかったんだな。


『このあたりで、何かを探しているらしいのです。もし香子さんが奴らに見つかったら……』

「分かった。明日にでも出発する。それと、僕からも聞きたいのだけど、《天竜》の捜索状況はどうなっているの?」

『《天竜》ですか。懐かしいですね。あの、交流会。嫌々ながら、出席したのですけど、カーテンの裏に隠れていたら、北村さんの来てくれて……ちょっと嬉しかったかな』

「思い出話はいいから、《天竜》の消息は?」

『すみません。《天竜》の事は、星系中にプロープをばらまいたのですが、発見できませんでした。でも、香子さんが最後の通信で『《天竜》を見つけた!』と言っていたのです。ですが、詳しい話を聞く前に……』


 やはりそうか。


「これを見てほしい」


 レイホーに、もらったメモをカメラの前にかざした。


『それは? 繁体字はんたいじ!』

「ナーモ族に聞いたのだが、帝国に滅ぼされたカルカの国に地球人がいたらしい。そこから逃れてきたと思われる人と会って、このメモをもらったんだ」

『それじゃあ、《天竜》の人たちは生きていたのですか?』

「ああ。今夜、その人と会う事になっているから、その時に詳しい事を聞いてみるよ」

『分かりました。よろしくお願いします』


 だけど、その夜、店を訪ねてみると、レイホーの姿はなかった。


「北村海斗様ですね。お待ちしておりました」


 僕らを出迎えたのは、ナーモ族の店員。


「まことに申し訳ないのですが、お嬢様と店長は急用ができまして」

「急用?」

「何でも、病気で臥せっていた旦那様の様態が急変しまして」

「それはお気の毒に……この店には他に地球人は?」

「地球人の店員もいたのですが、みんな旦那様のお見舞いに行きまして……」

「いつ帰ってくるかは……分からないでしょうね」

「ええ……明日になればお嬢様だけでも帰ってくるかもしれませんが……」

 

 さて、どうしたものか?


「ご主人様。明日には旧カルカ国に出発する予定ですが、どうします? 延期されますか?」

「いや、予定通り出発する。砂漠にいる帝国軍の動きも気がかりだし」

「分かりました。では、今夜は明日に備えてお酒は抜きですね」

「ああ! やっぱり、もう一日伸ばそうかな」

「ご主人様」「カイトさん」「お兄ちゃん」


 はいはい……酒は我慢します。だからPちゃんも、ミールも、ミクも、キラもそんな目で僕を睨むな!


(第七章 終了)

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