第154話 ミクの失踪1

『え? あたしなら、ここにいるよ』


 キョトンとした顔で、そう言ったのは電脳空間サイバースペースのミク。


「そうじゃなくて……」

『ああ! あたしのコピーがいなくなったのね。それなら、そう言ってよ』

 

 いや、普通言わなくても分かるだろう。


 今朝、目を覚ましてPちゃんと食堂に行くと、ミールもキラもダモン一家も揃っていた。


 しかし、ミクだけいなかったのだ。


 もう朝食を済ましたか? とミールに聞いたら、まだだという。


 部屋へ行ってみると、鍵は開いていて、部屋はもぬけの空。


 宿のあるじに聞いてみたところ、明け方頃に宿から出ていくミクの姿を使用人の一人が見ていたらしい。


 通信機で呼びだしたが、通信機は部屋に置きっぱなし。


 電脳空間サイバースペースの僕と違って、ミクとは昨日初めて会ったばかり。


 行動パターンなんか分かるわけがない。


 ミクの考えている事が一番分る者。ミク本人に聞いてみようと、母船に通信をつないだわけだ。


『ああ! それ心配ないよ』


 僕の心配をよそに、プロジェクションマッピングに映ったミクは、あっけらかんとしている。


『それ、朝のお散歩だから』

「散歩?」

『朝ごはんの前に、お散歩するのがあたしの日課なの』

「しかし、朝ごはんの時間は過ぎているぞ」

『変ねえ、いつも朝ごはんの前には、帰っているのに……』

「迷子になったんじゃないのか?」

『それはないよ。あたしが帰り道分からなくなっても、赤目が道を覚えているから』


 という事は……


「誘拐!?」

『あ! それかも……だってあたしって、美少女だし……』


 自分で言うなよ。


 とにかく、誘拐されたのなら大変だ。


 身代金目当てならまだいいが、これが変態ロリコンの仕業なら一刻も早く見つけないと……

 

 ダモンさんの話では、この町にも警察のような組織はあるらしい。だが、あまり当てにはならないという。


 自分達で探すしかない。


 僕は、Pちゃんとミールを連れて町へ繰り出し、キラとダモンさんにはミクが戻ってきた時のために宿に残ってもらう事にした。


 しかし……


「確か、町から人が逃げ出していると聞いていたけど……」


 周囲を見回すと、かなり多くの人がいる。


 少なくとも、僕がこの惑星に降りてから通ってきたどの町や村と比べても人が多い。


「あたしもよく分かりませんが、ダモン様の話では、これでも人が少ないそうです」


 これでも少ない方なのか。


 だが、この中から一人の女の子を探し出すのは、かなり難しそうだ。


 人種もいろいろといる。


 ほとんどがナーモ族だが、それも北方系と南方系で毛色が違う。


 二足歩行のトカゲ人の一団とすれ違った。


 ミールの話では、あれがプシダー族だそうだ。名前は聞いていたが見たのは初めて。


「カイトさん、プシダー族を刺激しないように気を付けて下さい」

「なぜ?」

「帝国の現在の領土は、元々プシダー族の国があったのです。だから、プシダー族の帝国への憎しみはナーモ族以上です」

「しかし、僕は日本人……」

「分かっています。ですが、プシダー族の目からは、帝国人と日本人を見分ける事ができません。ひどいのになると、ナーモ族と地球人も見分けられないのです」

「それは、まずいな」


 そう言えば、すれ違う時に睨まれているような気がした。


 地球人も少なくない。


 ほとんどが帝国人だが、東洋系もいる。


 という事はカルカ王に仕えた地球人というのは、やはり《天竜》の人達だろうか?


「カイトさん」


 ミールが一軒のカフェを指差していた。


 カフェにミクがいるのだろうか?


 しかし、あの子、この国のお金は持っていたかな?


「あの店が、どうかしたの?」

「素敵なカフェです。寄って行きません」

「あのねえ!」

「ご主人様」


 Pちゃんが一軒の服屋を指差していた。


「どうした?」

「素敵なワンピースです。買っていただけませんか? 私、メイド服しかなくて……」


 おまいもかい!


「二人とも……今は、それどころじゃ……」

「すみません、カイトさん。つい浮かれて……」

「まあまあ、ご主人様。ここは考えようです」

「何が?」

「私達が追っているのは若い女の子。つまり、私やミールさんの気を引くような店には、ミクさんも興味を示すと思うのです」

「なるほど」

「もしかすると、立ち寄ったかもしれません。そこで、店で聞き込みをしてみてはと思うのです」


 確かに、闇雲に探し回るよりはその方がいいな。


「ですが、ただで聞いたのでは、店の人はいい顔をしてもらえません。そこでその店の商品を購入、またはサービスを受けて、その時に『こんなの子知りませんか?』と聞くのです。これなら、効率よく情報を集められます」

「Pちゃん、いいアイデアですわ」


 そうだろうか? やたら、出費が嵩むような気がするが……


「では、さっそくカフェへいきましょう」

「いえ、私の服が先です」

「カフェ!」

「服!」

「ああ、もういい! じゃあ、ミールはカフェで待っていて。その間に僕は、Pちゃんと服を選んでいるから」

「それはないです。それなら、あたしも服を見ていきます」


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