第153話 母船との交信2
「母船とのコンタクトに成功ました。では、始めます」
Pちゃんの目から、レーザー光線が壁に向かって照射された。
レーザーが部屋の壁に映像を映し出す。
プロジェクションマッピングか。Pちゃんに、こんな特技もあったんだな。
しかし、この映像はなんだ?
てっきり、宇宙戦艦ヤ○トの
いや、この部屋、見覚えがあるぞ。
ブレインレターで見た僕らの溜り場?
部屋では、女の子がこちら背中をむけ、フローリングの床で寝そべっていた。
顔は見えないが……
『キャハハハハ!』
この笑い声はミク?
隣の部屋で寝ているはずでは……そうか! これは
何を笑っているのかと思ったら、漫画を読んでいるところだった。
どうやら、僕に見られている事に気がついてないようだ。
「おい。ミク」
『ん?』
こっちを振り向いたミクは、口にせんべいを咥えていた。
僕の方を見て、咥えていたせんべいがボロッと落ちる。
『お兄ちゃん!? なんで通信機に……あ! ひょっとして、地表にいる生データの人?』
生データの人? なんじゃあ、それは? まあ、当たってはいるが……
「まあ、そんなところだ」
『そっか、生お兄ちゃんなんだ。ねえ、そっちに、あたしのコピーが行ったでしょ? 今、どうしてる?』
「ああ、来たけど、今はグースカ寝ている」
『ええ! お兄ちゃん、あたしの寝姿見ないでよね』
「見ないよ」
見たくもないし……
「それより、そっちから呼び出しがあったのだが」
『そういえば、カルルがさっき通信機使っていたけど、誰も出ないってがっかりしていたよ』
カルルが?
「なあ。ミク。地上に降りたカルルが裏切った理由って、分からないのか?」
『みんなは、分からないって言ってるけど、あたしは理由を知っているよ』
「なんだって!?」
『これは、あたししか知らない事なのだけど』
なんだ? 何があったんだ?
『カルルが地上に降りて数日後のことだけど、カルルからあたしに通信があったの』
「カルルはなんて?」
『フラれたって』
「は?」
『香子お姉ちゃんに、プロポーズしてフラれたって言って、泣いていたんだよ』
「そ……そんな事が……」
『リトル東京の包囲戦のちょっと前ぐらいだけどね。そんな事があったので『司令部は嫌だ! 俺も最前線に出してくれ!』て、下にいるお兄ちゃんに頼んで、映像班に入れてもらったって』
「ミク。その後で、カルルはおかしくならなかったか?」
『なんか、人が変わったみたいに真面目になったって。みんなは、いい事だって言っていたけど、数年後にお兄ちゃんが香子姉と婚約して、そのしばらく後にカルルがカートリッジを盗み出して脱走したんだよ』
人が変わったように真面目になった!?
『だから、カルルが裏切ったのは香子姉にフラれて、さらに親友だと思っていたお兄ちゃんに香子姉を取られちゃったので……ええっと、こういう時になる気分なんて言ったっけ?』
「自暴自棄と、言いたいのか?」
『そうそう。自暴自棄になって……リア充爆発しろ! て気分になって……』
『いい加減な事を言うなあ!』
突然、カルルが画面に割り込んできた。
『いい加減? 図星でしょ?』
『んなわけあるか! いったい俺が今まで生きてきて何人の女にフラれた思っているんだ!? 女一人にフラれたぐらいで一々自暴自棄になっていたら、今頃、宇宙を滅ぼしているわ!』
『え? そうなの? あたしだったら、フラれたら式神出して、そこら中のリア充を殺しまくるけどな』
怖いぞ、この娘……
『ああ! うそ! うそ! そんな気分になるだけで、本当にはやらないから。お兄ちゃん、そんなに引かないで!』
「嘘だったのか? さっき、ミクの式神の力を目の当たりにしたからな。あれを暴れさせられたら
『え? そんなに凄かった? 地球で出した時は、全然役に立たなかったのに……』
カルルがミクを押しのけて、画面に出てきた。
『海斗! すまなかった! 俺のコピーが迷惑をかけて』
カルルが手を合わせて謝った。
「カルル。その事で話がある。さっき、カルカの酒場で帝国軍の元士官に会ったんだが……」
僕は、さっきの話をした。
『帝国軍が、ブレインレターを持っていたって?』
「ドロノフの話では、普段から国民を洗脳するのに使っていたようなんだ」
『じゃあ、俺のコピーは、それにやられたって言うのか?』
「ああ。僕もあの時の戦いをブレインレターで見ていて、腑に落ちない点があったんだ」
『どんな事だ?』
「あの時、ロボットスーツ隊は七人しかいなかったが、それでも帝国軍が映像班のいる方へ回り込めない様に対策をしていた。なのに、一個小隊ほどの部隊が回り込んで、映像班を襲撃した。僕がそれに気が付いて戻っていくまでの時間に、映像班を全滅させる余裕はあったはず。なのに犠牲は二人だけ」
『じゃあ、映像班を襲撃した奴らは、最初から洗脳が目的?』
「ああ。ついでに言うと、襲撃した奴らはドロノフの部下ではなくて、別働隊ではないかと思う。ドロノフの部隊が戦っている間に、川から舟で乗り付けたんじゃないかな?」
『そんな事が……』
「さらに言うと、リトル東京攻囲戦そのものが勝つためじゃなく、日本人の何人かを洗脳するのが目的だったのではないかな?」
『いくらなんでもそれはないだろう。あの戦いでどれだけの帝国兵が死んだと……』
「あれだけの犠牲を出したのに、総大将のネクラーソフがまったく降格していないどころか昇進していた」
『え?』
「実は、僕は先日シーバ城でネクラーソフと会ったんだ。その時の映像が残っているので、奴の着けていた階級章を、さっき調べたら大将の階級章だった。あれだけ大敗しておいて、昇進するなんて、おかしいと思わないか?」
『確かにおかしいが、俺一人を洗脳するために……』
「一人じゃないかもしれない」
『なに?』
「他にも洗脳された人間がいる可能性がある」
『そんな事が……いや、そうかもしれない。分かった。この事を上に報告しておこう』
そこで僕達は、いくつか打ち合わせをして通信を終えた。
通信を終えた時、僕は猛烈な睡魔に襲われ、そのままベッドに倒れこんだ。
今日はいろんな事があり過ぎたのだから無理もないな……
そして、翌朝。
ミクが失踪していた。
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