第152話 母船との交信1
宿へ向かう夜道を、僕たちは急いでいた。
夜道と言っても、カルカの夜道は街路灯が整備されていて明るい。
日本では街路灯なんて当たり前だったが、この惑星に降りてから立ち寄ったどの町や村にも街路灯などなかった。
しかも、この街路灯、明らかに蛍光灯。電気を使っているんだ。という事は、やはり《天竜》の人達がもたらしたのか?
まあ、それについては後で調べるとして、今は……
「カイトさん。急にどうしたのです?」
ミールの方を向く。
「ちょっと、確認したい事が出来たんだよ」
カルルが、なぜ裏切ったのか?
カルル本人も含めて……
この惑星で、僕が接触したカルルと、ブレインレターで会ったカルルはまるで違っていた。
顔と基本的な性格は変わらないのだが、何かが違っているのだ。
裏切ったというより、別人になったと言った感じだ。
リトル東京包囲戦の時、カルルは映像班を指揮していた。
映像班は敵に襲撃され、カルルはトラックから離れたところで気を失っていた。
あの時に、ブレインレターによる洗脳を受けていたとしたら……
映像班の犠牲者は二人だけ。
しかし、全滅していてもおかしくない状況だった。
敵は、カルルを洗脳した後、怪しまれないでこっちへ戻すために攻撃の手を抜いたのだとしたら……
考えながら歩いているうちに、宿に着いた。
しかし……
「寝ている?」
キラの話では、ミクは大いびきをかいて爆睡しているという。
部屋割りでは、ミクはキラと同室だったのだが、キラが風呂に入っている間に、先に部屋に入っていたミクが鍵をかけて眠ってしまったのだ。
僕達が宿に戻った時には、部屋の前の廊下でキラが途方に暮れていた。ドアの向こうからは、大きなイビキが聞こえてくるだけ。
「師匠。私は今夜どこで寝れば」
「仕方ないわね。キラは、あたしの部屋で寝ましょう」
このイビキでは、起きそうにないな。しょうがない。朝まで待つか。
「ご主人様。ミクさんに何の用があったのです?」
「
ドロノフの話では、ブレインレターは複数あった。他にも洗脳を受けた者がいるかもしれない。
その事をPちゃんに話すと……
「なるほど、ブレインレターでの洗脳は十分あり得ますね」
「そうだろう。そうと分かれば、カルルを元に戻すことも……」
「それは無理です」
「なぜ?」
「ブレインレターでの洗脳とは、言ってみればコンピューターウイルスのようなものを相手の意識に送り込むのです。本人も気が付かないうちに、ウイルスが増殖して意識を蝕み作り変えてしまうのです」
「それを、元に戻すわけにはいかないのかな?」
「これをやると、元からあった意識とブレインレターで送り込まれた意識が混ざり合ってしまうのですよ。元の状態に戻すには、混ざり合った意識を分離しなければなりません。可能だと思いますか? 無理です。マクスウェルの悪魔でもいない限り」
「それは……熱力学第二法則だろ。人間の精神にそれは……」
「物質でも精神でも同じです。混ざり合った物を、再び分離するのは難しいのです」
「そうなのか?」
「ご主人様。なぜ、あの男を助けようと思ったのです? あれほど、毛嫌いしていたはずなのに」
「え?」
言われてみれば、なぜだろう?
「分からない。だが、元々あいつは味方だったはずだ。できるなら、元に戻したい。そんな風に思っている僕は、もしかしてブレインレターに洗脳されたのかな?」
「それはありません。ただ、洗脳というほどではないにしても、本来のカルルの姿を見て、親近感ぐらいは出てくるかもしれません」
「そうなのかな?」
「それより、ご主人様。そういう事でしたら、母船に直接問い合わせてみてはいかがでしょう?」
「え? できるの? そんな事」
「今まではできなかったのですが、先ほど、母船の方から通信が届きました」
「なぜ、今頃になって?」
「事情は分かりません。だが、推測はできます。母船との交信には、母船側が私の現在位置を半径五十メートルまで絞り込む必要があります。恐らく、先ほどミクさんの通信機と交信を試みた事によって、母船側が私の現在位置を特定できたのかと」
「もしかして、さっきの交信に通信衛星を経由したの?」
「はい」
「しかし、通信衛星は以前にも使っただろう?」
「その時は、誰も気が付かなかったか、気が付くのが遅れて、その間に私たちが移動したためと考えられます。それに、私が通信衛星を使ったのは、塩湖でカルル・エステスのドローンと戦った時だけです。それ以後は、通信衛星の使用は控えていました」
「なぜ?」
「あの時は、カルル・エステスが通信衛星を使用している可能性があると判断したためです。もし、そうなら、下手に通信衛星を使うと、現在位置を特定される危険がありました。しかし、今までの状況から考えて、カルル・エステスが通信衛星を使っている可能性は、ほとんどないと考えられます。そこで今回は、通信衛星を使用してみる事にしました」
「とにかく、母船と連絡が取れるなら、その方がミクに聞くよりも手っ取り早い。Pちゃん、繋いでくれ」
「分かりました。では、お部屋に来てください」
Pちゃんに促されて、僕の部屋に入った。
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