第140話 内通者

 補給基地の地下に造られたオペレーションルーム。


 そこの巨大モニターに、山道を進む帝国軍の隊列が映っていた。


 規模は二個大隊ほど。


「どうして?」


 芽衣ちゃんが呟くように言う。


「今まで、帝国軍に、この場所は分からなかったのに……」

 

 ダモンさんが、この場所を喋った事はまだ誰も知らないんだな。


 それより、僕がこの場所にいるという事は、やはりそういう事なのか……


「ヘリが出入りしていましたからね。それを見られたのでしょうか?」


 ドローンを操作していたオペレーターの一人が言った。


「いや。そもそも、帝国軍にはヘリコプターの航続距離なんて分からないはず。向こうから見たら、山の上を通り過ぎているだけに見えるだけだ」

「空を飛ぶなら、どこでもいいはずです。なのに、この山だけは必ず通る。そこから推測されたか、あるいは……」


 彼女は、そこで口を噤つぐむ。隣にいるオペレーターが口を挟んだ。


「はっきり言いなさいよ。みんなそう思っているのだから」

「でも……」


 何があったのだろう? 半年の間に?


「何か、僕に言いたいことがあるのかい?」


 三人のオペレーターたちが一斉に僕の方を振り向いた。


「司令。先日カルル・エステスが内通の疑いで拘束された事をご存じですか?」

「知っているよ。でも、すぐに釈放されただろう」

「証拠不十分で、釈放されたのです。疑わしい事に、変わりありません」

「なぜだ? あいつが日本人じゃないからか?」

「いえ……そうじゃなくて……行動が怪しいって、前から言われていたのです」

「どうおかしいと?」

「休日ごとに一人でどこかへ行っていました。司令はご友人なのに、行き先をご存じなかったのですか?」

「ああ! それは釣りだと言っていた」

「一人で釣りですか? 司令も誘わずに? あの人、孤独を愛するような人ではありませんよ。電脳空間サイバースペースで釣りや狩猟をやるときは、いつも司令と一緒でしたよね?」

「いや……釣り対象が違うんだ」

「どう違うのですか?」

「ほら……地球人とナーモ族って、結婚できるってわかっただろう。それを知ってからあいつ、ナーモ族の女の子をナンパしに近隣の村へ……」

「やはりご存じなかったのですね。司令は、ずっとこの基地にいたから無理もないですけど。カルル・エステスがナンパ目的でナーモ族の村に行っていたことなんて、みんな知っています。そして彼が拘束されたのは、それが嘘だと発覚したから。どこの村へ行っても、彼の姿を目撃した情報がなかったのです」

「なんだって? それじゃあどこへ?」

「それが分からないから、拘束されたのですよ。おそらく、釈放したのは泳がすためでしょう。帝国にこの場所を教えたのは彼ですよ」

「あいつは、そんな奴じゃない!」


 突然、僕は大声を張り上げた。


 三人のオペレーターたちがビクっと硬直する。


 それに気が付いた僕は慌ててなだめた。


「すまない。怒鳴ったりして……」

「いえ……私こそ、すみません。司令の大切な友人を悪く言って」

「いや……実を言うと僕もあいつの様子がおかしいと思っていた。ただ、認めたくなかったんだ。だが、仮にあいつが内通していたとしても、この場所を知っているはずがない」

「本当のこと言うと、彼の拘束は私が関わっていたのです」

「どういう事だ?」

「先日、私がリトル東京に戻った時、彼からナンパされたのですよ。私もお茶ぐらいいいかなと思って付き合ったのですが、その時彼は、さりげなく私からこの場所を聞き出そうとしていたのです。もちろん喋りませんでしたよ。彼が拘束されたのは、私がそのことを上に報告した直後です」

「そんなことがあったのか。しかし、あいつが内通していたとしても、君からこの場所を聞き出すのには失敗したわけだろ」

「では、誰が帝国軍に、この場所を教えたというのです? ここを知っているのはリトル東京でも限られた者だけ。後は、シーバ城のカ・ル・ダモン氏だけですが、あの人がそんな事をするはずないじゃないですか」


 ところが、やってしまったんだよな。奥さんと子供を人質に取られて……


 そうか。カルルがこの場所を聞き出すのに失敗したので、帝国軍はダモンさんを脅迫する事にしたんだな。

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