第139話 補給基地
「ちょっと、やりすぎたかな」
僕がそう呟いたのは、回収されたヘリの窓から、土石流の痕を見下ろしているときの事。
一緒に回収されたダモンさんをはじめナーモ族たちも、その凄まじい光景に目を丸くしていた。
「一個大隊を……たった一人で……凄い! 君ほどの戦士は、見たことがないぞ」
いや、ダモンさん、それ買いかぶりだから。
僕は母船からの誘導弾を誘導しただけで……しかも落ちたところが、たまたま氷河だっただけで……一人でこんな事できるわけないって。
しかし、ダモンさんから見たら、僕は強力な攻撃魔法の使い手かなにかのように見えたのだろうな……まさか?
いや、違う! まだ、そうと決まったわけでは……
しかし、もう一人の僕はダモンさんの目の前で今、帝国軍一個大隊を殲滅して見せた。
ダモンさんが言っていた帝国軍一個大隊を一人で殲滅した戦士って……まさか?
「違います。ダモンさん。これは僕一人の力ではありません。母船との連携でできたのです」
「いやいや、そう謙遜するものではないぞ。戦士殿。貴殿ほどの力があれば帝国軍がいくら攻めてこようと蹴散らせる」
背後から別の若いナーモ族が声をかけた。
「ダモン殿。いっそこの場所を敵にリークするというのはどうでしょう? 何も知らずに、のこのこと攻めてきた帝国軍を、キタムラ殿の力で殲滅してもらうのです」
「おお! それはいい作戦だ」
それを聞いた僕は慌てた。
「ちょ……ちょっと、本当にやったらダメですよ」
やっちゃったんだよな。実際……
「わはは! 冗談だ。女房子供でも人質に取られん限り、わしはこの場所を喋ったりせぬ」
取られちゃうんだよなあ……この後……そしてこの場所を喋っちゃうんだよなあ……
「本当にやめてくださいね。僕はそんな大層な戦士ではないですから……顔を見てもらえば……あれ?」
僕はヘリの中を見回していた。何を探しているんだ?
ヘリの中には、ダモンさんも含めて五人のナーモ族と通訳の相模原月菜がいるが、別に彼ら彼女らを探しているわけではなさそうだ。
僕は操縦席の方を向く。
操縦している香子の背中が目に入った。
「香子。着脱装置は?」
そうか。ロボットスーツを脱いで、実際の姿を見てもらおうとしたのだな。
さっきの戦いで僕はダモンさんたちに無敵超人のような誤解を与えてしまった。
細っこい身体と、柔和な顔つきといった本来の姿を見てもらえれば、そんな誤解も解けると思ったのだろうか?
「ごめん海斗。着脱装置は、さっき補給基地で芽衣ちゃんと一緒に降ろしてきちゃった」
それを聞いた相模原月菜が立ち上がり、操縦席の香子に詰め寄る。
「鹿取さん。なぜそんな事を! 北村君は、戦闘で疲れているのが分からないの?」
いや、僕は疲れているから、脱ぎたかったわけじゃなくて……
香子は振り向きもしないで答える。
「装置を降ろさないと、ヘリに全員乗せられないからよ。相模原さんをアジトに置き去りにしてもいいなら、積んできましたけど……」
「う……それなら仕方ないわね。だったら、さっさと基地へ急ぎなさい!」
「あんたが命令するな!」
程なくして、補給基地が見えてきた。
それは、険しい山々に囲まれた盆地にあった。攻めるには難しい天然の要害だ。
山肌を削って作ったヘリポートの横に小さな小屋があり、その地下にLNGタンクと居住施設が作られている。
「それじゃあね」
「え?」
ヘリポートでは、僕一人を残してヘリは飛び立つはずだった。
しかし、着陸したヘリから、僕に続いて相模原月菜も降りてきた。
ローターの止まっているヘリに向かって、なぜか彼女は手を振っている。
「あの……相模原君はシーバ城に行くのでは?」
「翻訳ソフトは昨日完成したから、私はもう行かなくてもいいのよ」
言われてみれば、さっきからダモンさんと翻訳機で話していた。
「いや……そうは言っても、君はここの基地要員じゃないし……」
「北村君が基地司令でしょ。私一人ぐらい部下が増えてもいいじゃない」
基地司令? 僕が……
「いや……僕には、任命権はないから……」
「じゃあ、ここの通信機を貸して。母船と掛け合って任命してもらうわ。それとも、私がいたら困るの?」
「え? いや……その……」
こらあ! もう一人の僕! そこははっきり『婚約しているから困る』と言わんか!
『相模原さん。もう出発です。ヘリに戻ってください』
ヘリのスピーカーから聞こえてきた香子の声は、かなりイラついてる。
それに対して相模原月菜は、挑発するようにヘリに向かって手を振った。
『こらあ! 戻ってこんかい!』
激怒している香子に向かって、相模原月菜は手を振りながら舌を出している。
と、そこへ芽衣ちゃんのロボットスーツが近寄ってきて、相模原月菜をガシっと捕まえた。
「相模原さん。基地は、関係者以外立ち入り禁止です。ヘリにお戻りください」
「そ……その声は船長の娘ね。放しなさい」
『芽衣ちゃん、放しちゃだめよ。そのまま、ヘリに放り込んで』
「ちょっと、鹿取さん、それでいいの? この娘も北村君を狙っているのよ」
「私、北村さんが好きです。でも、狙ってはいません」
そのまま芽衣ちゃんは、相模原月菜をヘリに押し込んだ。
そこで再生が止まった。
『ここから半年飛ばすよ。次で見る記憶が最後になる』
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