第138話 では、ちょっと殲滅してきます

「後で迎えに来るから」


 ヘリはそのまま、補給基地へ向かう。


「よく来てくれた。日本の戦士よ」


 この声は?


 振り向いた僕の目に映ったのは、恰幅のいいナーモ族の中年男性。


「私はシーバ城の宮廷魔法使いカ・ル・ダモンだ」


 ダモンさん!?


「初めまして。北村海斗と申します」


 ちょっと待て! 今、僕は自己紹介したよな。


 じゃあ、ダモンさんは僕を知っていたのか?


 先に再生された僕に会っていたのか?


「北村君? 北村君なの?」


 聞き覚えのある女の声……


「助けに来てくれたのね」


 相模原月菜るな


「なぜ、君がここに?」

「通訳としてここに来ていたの。まさか、北村君が来てくれるなんて」

 

 こらこら! もう一人の僕よ。何を抱きつかれてオロオロしているんだ!

 

 もう、香子と婚約したのだから、こういう事はダメだと言えよ!


『まったく、自分の複製ながら情けない。君もそう思わないか?』

 

 思うぞ。電脳空間サイバースペースの僕。


『しかし、自分が同じような状況になったら冷静に対処できるか? たぶんできないだろうな……』 


 うん。確かに……


「あの……相模原君。今の状況を教えてくれないかな?」

「ゴメンネ。取り乱しちゃって」


 事情を聞いてみると、相模原月菜は《イサナ》で南方ナーモ語の翻訳ソフトを作っていたらしい。


 どうやら、ナーモ語も北方と南方でかなり違うのだそうだ。


 そんな時に補給基地を作る事になった。


 それには《イサナ》のコピー人間だけでは手が足りないので現地人の協力が必要。


 しかし、現時点で翻訳デバイスには北方ナーモ語しか入っていない。


 そこで相模原月菜のコピー人間を作って通訳として現地に派遣することになったわけだ。


 このアジトは、要塞と言うより現地協力者のための宿泊施設のような物だったらしい。

  

「それで、敵は今どのあたりに来ているの?」

「この先の、大きな雪渓に集結しているわ」


 テーブルの上に、この辺りの航空写真を広げてもらった。


 相模原月菜は『雪渓』と言っていたが、これは雪渓というよりちょっとした氷河だな。


「雪渓が、よく見えるところはないかな?」

「それなら、あそこが良いだろう」


 ダモンさんが指し示したのは、見張り台。


 そこに登ると、氷河の様子が丸見えだった。


 細長い山道を登ってくる帝国軍が、次々と氷河の上に集結していく。


「あそこに集結してから、一気にここへ攻めてくる気だろう」

「ここの人数は?」

「五人ほど。とても防ぎ切れん」

「分かりました。では、ちょっと殲滅してきます」

「『ちょっと』って君! 相手は一個大隊だぞ」


 ダモンさんが止めるのも聞かず、僕はICパック機能を駆使して氷河の上に降りて行った。


 氷河の上に降りた僕に、帝国軍は無数の銃を向ける。


「何者だ!?」


 誰何する帝国軍に、僕は正直に答えた。


「見ての通り、クセ者だ」


 途端に一斉射撃。 『銃撃を受けました。貫通なし。損傷なし』のメッセージがバイザーに大量に表示される。


「効かないぞ!」「化け物め?」

「化け物は酷いな」


 僕はショットガンをフルオートで撃ちまくった。


 最前列にいた帝国軍兵士たちが鮮血を撒き散らし、氷河を赤く染めながら倒れていく。


「おのれ!」


 仲間の屍を踏み越えて、帝国軍兵士は僕に向かって銃撃を繰り返す。


 マガジンを交換して僕も撃ち返し、死体を量産していく。


 そんな戦いを、しばらく続けている時、通信が入った。


『誘導弾投下しました。誘導をお願いします』

「了解」


 僕はICパックを使って近くの崖の上に登った。


「降りてこい! 卑怯者!」


 崖の下で騒ぐ帝国軍に構うことなく、僕は氷河の上に積み上げられていた物資……食糧か火薬か分からんが……にレーザーを照射した。


 数秒後、空から降ってきた火球が物資を直撃。


 数十人の兵士ごと、周囲を火炎で包み込んだ。


 爆弾ではなく焼夷弾を使ったようだ。


 爆風や振動は、ほとんどない。


 次に僕は、司令官がいると思われるテントにレーザーを照射。


 数秒後、テントも数百人の兵士を巻き込んで炎に包まれる。


 兵士たちは完全に統率を失い、我先にと逃げ出した。


 だが、逃げるのは遅かったようだ。


 母船が爆弾ではなく焼夷弾を使ったのは、山の崩落を防ぐだめだったのかは分からない。


 しかし、使った場所が不味かった。


 こんなところを大量の炎で包み込んでしまったため、氷河が融解して土石流を発生させてしまったのだ。


 土石流の治まった後には、一人の兵士も生き残ってはいなかった。

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