第137話 ICパック

 ヘリは、急峻な山並みに差し掛かった。日本アルプス級の山岳地帯が眼下に広がる


「補給基地って、こんな険しい山の中にあるのですか?」


 芽衣ちゃんは、窓の下を見下ろしながら言った。


「そうよ。いくらここが帝国領のど真ん中でも、こんなとこまで帝国軍は入ってこられないわね。ナーモ族やプシダー族でも、よほどのことがなければこんなところには来ない。だけど、天然ガス田があるので、ヘリコプターの燃料を作れるわ」


 香子は振り向きもしないで操縦席から解説する。


「なあんだ。それなら、出発前に教えてくれれば、私も安心したのに……」

「それがね、そうもいかないんだよ」


 僕の声は、何処か憂鬱そうだ。


「どうしてですか?」

「リトル東京の情報が、どっかから帝国に漏れているみたいなんだな」

「スパイですか?」

「ああ。仲間を疑うのは嫌だけど……リトル東京の中に内通者がいるみたいなんだ。だから、この基地の位置は一部の者しか知らない。いくら険しい山の中だからと言っても、ここに基地があるって分かったら、帝国軍が殺到してくるのは目に見えているからね」


 内通者? カルルか?


 そういえば、このブレンインレターで見せられたカルルは、僕が戦ったカルルと顔は同じだが性格はまるで違う。


 どうなっているんだ?


 通信機のコール音が鳴り響いた。香子がスイッチを入れる。


「はい、こちら、ハヤブサ03。はい……分かりました」


 香子が振り向く。


「海斗。すぐにロボットスーツを着けて」

「どうした?」

「この近くに、ナーモ族パルチザンのアジトがあるのだけど、帝国軍に見つかったらしいの」

「パルチザンのアジト? こんなところに?」

「補給基地を作るのに、協力してもらった人たちなのよ。万が一捕虜にされたら、補給基地の存在を知られる危険があるわ」

「敵の数は?」

「約一個大隊」

「一個大隊か。二人じゃきついな」

「いいえ、海斗一人でやるのよ」

「なに?」

「母船の方では精密誘導弾を開発したの。今回はそれを使うって」

「じゃあ、僕は行かなくても……」

「地上で弾丸を誘導するレーザー手が必要なの。分かったら、急いで。レーザーも忘れないでね。それと、くれぐれも無理はしないでね。婿入り前の、大事な身体なんだから」

「あの……それなら、私が出撃した方が……」

「ダメ。ここでは新装備のICパックを使うから。あれはまだ海斗しか使えないのよ」

「そうですか」


 ICパック? なんだそりゃ?


『ICパックは、ロボットスーツのバッテリーパックに飛行機能を持たせたものだ。これを使うと短時間だが空を飛べる。バッテリーも外さなくていい。ICパックを使うのに必要な知識は、ブレインレターで君の記憶に直接刻み込んでおいた。だから、それが必要になったら、その時に思い出すよ』


 それは便利だ。

 

 程なくして、山の中に作られた砦の上でヘリはホバリング。


 僕はヘリのドアから飛び降りると同時に、コマンドらしき言葉を叫んだ。


 落下速度が落ちて、地表にふわりと着地する。


 これがICパックの機能か?

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