第133話 包囲されたリトル東京 1
「確かに、リトル東京は囲まれているな。それは嘘ではなかった」
「しかし、こんな離れたところを囲んでどうするつもりだ?」
プレハブ小屋に戻った僕の耳に、そんな会話が飛び込んできた。
「何があったんだ?」
僕に尋ねられたカルルは、大型モニターを指差す。
「偵察用ドローンが、敵を見つけたんだよ」
モニターには、リトル東京周辺の地図と、敵の配置が表示されている。
リトル東京を中心にした半径十キロの円周上に、数千人の小部隊がいくつも配備されているのが、それを見て分かった。
南方に森の中に二千人、南西の台地に一万人、西の海上にガレー船十隻、兵力三千人、北西の草原に三千五百人、北の草原に三千五百人、北東の平原に千人、東の湖上にガレー船十五隻 兵力四千人、南東の平原に三千人。
大軍で城を包囲すると言ったら、それこそ蟻の這い出る隙間もないぐらい包囲する意味かと思っていたけど、これじゃあ、まるっきりザル。
「どういうつもりでしょう? 兵力をこんなに分散させて?」
その理由は、すぐに分かった。
帝国軍の駐屯地は、すべてナーモ族の集落のすぐそばにあったのだ。
「なるほど。隕石で攻撃すればナーモ族も巻き込むぞという事か」
「湖上と海上の艦隊は?」
「近くに島がありますが、そこはプシダー族の村があります。隕石を使えば、津波で巻き込む恐れが」
「人間の盾か。えげつない事を」
「しかし、詰めが甘いな。私ならガレー船に、ナーモ族の漕ぎ手を乗せるがそれはやらなかった。船を沈めるには問題ない。もっとも、奴らはこちらの武器を知らないのだから無理もない。今まで、軍用ドローンは武器を外してあったが、すでにこちらで設計したミサイルと銃を装備している」
正規兵器のデータはないはずなのに、どうしてドローンに武器があるのか? と前から思っていたけど、ここで設計していたのか。
「しかし、これでは各個撃破して下さいと言わんばかりの陣形じゃないですか。奴ら、何を考えているのだ?」
「すでにカナン王国軍には、軍用車両を供与してある。この機動力をもってすれば、奴らが集結する前に半数は潰せる」
「奴らは、こっちの装備を知らんのだろう。だからこんな事を……」
「はたして、そうでしょうか?」
異を唱えたのは、他ならぬ僕だった。
「確かに帝国は、地球の科学技術を失って退化しています。しかし、彼らも元は地球人。知識として、こちらの装備は分かっているはず」
「何が言いたい?」
僕は地図の一か所を指示した。
「もし、各個撃破戦をするなら、最初に叩くのは数の一番少ない北東の部隊です。でも、敵は戦闘の専門家。最初に我々がここを攻めるのは、十分予想できるでしょう。北東の部隊は、我々を誘い込む目的で、わざと数を少なくしているのではないでしょうか?」
「つまり。罠を用意していると?」
僕は無言で頷いた。
「では、君はリトル東京に籠城するべきだとというのか?」
「普通に考えれば、それがいいと思います。たとえ、この戦力で攻め込まれても、リトル東京は落ちないでしょう。しかし、下手に出撃して、ここの守りを手薄にしている時に攻め込まれたらたまらない」
「なるほど」
「ただし、敵もそう思っているでしょうね。まともに攻めたら勝ち目はないって。だから、帝国軍は我々が打って出てこないときは、ここではなく近隣の集落を襲うと思います」
「では、どうすれば……」
「ナーモ族を見捨てるなら、籠城しても問題はないでしょうがそうはいかない。ナーモ族を助けるには、打って出るしかないでしょう」
「しかし、罠があると言ったのは君だろう」
「ええ。だから罠を逆に利用するというのはどうでしょう?」
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