第131話 軍使

 大気圏突入体から降りた僕を最初に出迎えたのは、銃弾の嵐。


 フリントロック銃数百丁を構えた帝国軍からの一斉射撃だ。


 すでに、ロボットスーツを着用していた僕には痛くも痒くもないが……



 僕はショットガンを、フルオートで撃ち返した。


 帝国兵は、次々と血しぶきをまき散らして倒れていく。


 右に視線を向けると、僕が乗って来たのと同じ大気圏突入体が六機あった。


 それぞれの機体から、僕と同じようにロボットスーツを着用した者たちが出てくる。


 六人のロボットスーツは、僕に向かって敬礼した。


「全員突撃!」


 どうやら、僕が隊長を務めているらしい。


 いつの間に、こんな対人スキルを身に着けたんだ?


 僕の号令でロボットスーツ隊は、逆V字陣形を組んで帝国軍に向かっていく。


 なるほど。集団で戦うと、いろいろと便利だな。


 七人の内、二人が加速機能を使っている間、他の隊員が外したバッテリーを守り、五分して戻ってきた隊員がバッテリーを装着すると今度は別の隊員が加速機能を使う。


 集団で戦うと、そういうローテーションが組めるわけだ。


 今回、僕達が攻め込んだのは、湖と海に挟まれた狭い地峡にある台地に築かれた帝国軍の砦。


 この地峡は北方諸国へ向かうための要衝なわけで、そこを帝国軍が無防備に放置するわけがない。案の定、砦が築かれていて千人の帝国軍が守っていた。


 その砦が落ちるのに一時間とかからなかった。


 城に突入した僕らは、まず弾薬庫に火を放ち、続いて砦の士官クラスの軍人を片っ端から狙い撃ち。


 命令系統がズタズタになり帝国軍が混乱しているところへ城門を開き、外で待機していたカナン王国軍五千を招き入れた。


 さらに、母船から降りてきたシャトルから人員やロボットが次々と降りてきて砦は完全に占領した。


 その砦のあった台地を帝国軍はなんと呼んでいたか知らないが、その日から、この台地はリトル東京と呼ばれるようになったのだ。


 もちろん、帝国軍もすぐに台地を取り返そうと、軍を送ってきた。



『《イサナ》船長 森田保殿


 貴殿らが、我が領土に構築したリトル東京と称する小城を撤去する事を要求する。

 すでに我が第三軍三万がリトル東京を包囲している。

 三日だけ猶予をやる。

 その間に城を放棄して撤退せよ


      帝国軍第三軍司令 ネクラーソフ中将』


 そんな手紙を帝国軍の使者が届けてきたのは、僕らがリトル東京に降りてから十日後のこと……


 てか、また、ネクラーソフのおっさんか。


 いや、『また』というのは違うか。これは過去の記録だから……


 ネクラーソフのおっさんとしては、日本人とは初手合わせという事だな。


「三万の軍隊なんて、どこにいるんだ?」


 リトル東京の一角に設けられたプレハブ小屋の中に、僕を含めた主だったメンバーが集まり会議が開かれていた。


 その中に一人、ゲストがいる。


 アレクセイ・ドロノフと名乗った五十代ほどの帝国人の男。帝国軍から派遣された軍使で、手紙はこの男が持ってきた。


「返事を聞かせて頂きたい」


 ドロノフは森田船長を睨みつけた。


 森田船長のコピー人間は、この惑星上で十年近く過ごしたためか、いくらか老けていた。


 髪も髭もすっかり白くなっている。


 ただ、電脳空間サイバースペースで会った時より、眼光が鋭くなっていた。


「ドロノフ君と言ったな。返事をする前に聞きたいのだが、君たちは本当に地球人ではないと言い張るのかね?」

「言い張るも何も、それが事実だ。帝国人はこの惑星で発生した。余計な干渉は、やめてもらおう」

「まあ、良いだろう。ところで、リトル東京の周辺に帝国軍の姿が見当たらないのだが、第三軍とやらはどこにいるのかね?」

「別に隠しているわけではない。軍はここからは見えない距離で、遠巻きに包囲している。あんたら飛行機械を持っているのだろう。あれで探せばすぐ見つかる」

「分かった。探してみよう。話を戻すが、ドロノフ君。あくまでも、君たちは地球人である事をとぼけるのだね」

「とぼけてなどいない。事実だ」

「それが事実というなら、それでもいい。だが、君たちの退化した武器で、我々と互角に戦えると本気で思っているのかね?」

「確かにお前たちは強い。先日の戦いでそれは身に染みた。だが、お前たちは数が少ない。こちらが犠牲を厭わずに攻め込めば、いずれ力が尽きる」

「なぜ、我々の数が少ないと思う?」

「お前たちは、可能な限りこの惑星には干渉してはならないはずだ。それが、ナーモ族に武器を渡してまで味方にしようとしている。自分たちの少ない戦力をナーモ族で補おうとしているのだろう?」

「なるほど」

「こっちの数は三万。いくらそちらの武器が優れていても押し切れる。ここでそちらが撤退すれば、お互い無駄な犠牲は出さなくて済む」

「確かに我々の戦力は少ない。しかし、ナーモ族の協力によって戦力不足は埋まった」

「ナーモ族など、いくら集まったところで烏合の衆さ。我々が、ちょいと鉄砲をぶっ放せば、すぐに逃げ出す腰抜けばかり。そんな戦力が役に立つと本気で思っているのか?」

「それはナーモ族が、今まで火薬を知らなかっただけだ。私が連れてきたカナン王国軍は、火薬を使った武器の訓練を十分に積んでいる。なにより、彼らは腰抜けではない。勇猛果敢な戦士たちだ」


 途端にドロノフは笑い出した。


「何がおかしいのかね? ドロノフ君」

「ナーモ族が勇猛果敢!? これが笑わずにいられるか。あいつらは腰抜けのチキン野郎さ。俺たちに刃向えるものか」

「ドロノフ君。今、君は『チキン野郎』といったが『チキン』とは地球に生息する生物。地球人ではない君が、なぜそれを知っているのかね?」


 途端にドロノフの笑いが止まった。


「こ……この惑星にも『チキン』という生物はいるんだ。た……たまたま同じ名前だっただけだ」


 プププ……苦しい言いわけ……


「ほう。では、一度この惑星の『チキン』という生物を見せてもらいたいな」

「チキンなどどうでもいい! ナーモ族が腰抜けだってことは変わりないんだよ。多少火薬に慣れたところで、三万の軍勢を前にしたら腰抜かして逃げ出すぜ」

「それはどうかな。三万と言わず、三十万でも三百万でも連れてくればよかったのだ。恐らく、それでも彼らの勇気を打ち砕くには足りないだろう。無駄な犠牲を出したくないなら、さっさと帝都に帰ったらどうだね?」

「強がりを言うな」

「強がりではない」


 森田船長は、白い封筒をドロノフに差し出した。


「これは?」

「私からの返答だ。ネクラーソフ中将に渡してくれ」


 ドロノフは封筒を受け取ると大事そうに懐にしまった。


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