第104話 蛇型ドローン潜入
夕闇が迫る頃、ネクラーソフの乗った馬車は、ようやく城門の近くまで戻ってきた。
『まったく、今日は散々だったわい』
ネクラーソフはえらく機嫌が悪そうだ。
まあ、そうだろうな。ほぼ半日ミールの分身に振り回されて、帰り道は、橋を落とされるは、崖が崩されるはして大きく迂回させられたのだから。
やったのは僕だけど……
『ネクラーソフ閣下。城へ偵察に行った者が、戻ってきました』
『うむ。ここへよこせ』
一人の兵士が馬車に乗り込んでくる。
『報告します。先ほどの土煙は、弾薬庫が爆発したものでした』
『なんだと!? 被害は?』
『実は弾薬庫が爆発する前に、空から度重なる攻撃を受けていまして、今日一日で死者は二十名、重軽傷者はあまりにも多くて、実数を把握できていませんが百名は下らないかと』
『空からの攻撃だと? いったいどうやって?』
『最初はドローンという飛行機械による攻撃でした。この攻撃で、城の各所に火をつけられ、その火が最終的に弾薬庫に引火したものと推測されます』
『ドローンというのは、日本人が使っていた飛行機械だな。という事は、リトルトーキョーからの攻撃か?』
『いえ。カルル・エステス氏の話では、カイト・キタムラという男の単独犯行のようです』
単独犯行って……その言い方だと、まるで僕がテロリストみたいじゃないか。
でも、帝国軍から見たらそう見えるのだろうな。
『実は、朗報もあるのです』
『なんだ?』
『カルル・エステス氏が、ミールを捕獲しました』
『なんだと? 本当か? 分身ではないだろうな?』
『紛れもなく本物です。分身も紛れ込んでいましたが、カルル・エステス氏が全て排除してくれました』
『うむ。よくやってくれた。帰ったら、礼を言わねばな。ドローンもエステスが対処してくれたのか?』
『はい。城の屋上にレーザーという兵器を設置してくれたおかげで、ドローンは飛んで来れなくなりました』
『そうか。しかし、ミールは何が目的で城に忍び込んだのだ?』
『それが、ベジドラゴンを逃がすのが目的だと言っていましたが……』
『ベジドラゴン? そんな事のために……』
『おまえら! やっぱりベジドラゴンを、捕まえていたのか!』
突然アンダーが素っ頓狂な声を上げた。
てか、こいつまだいたの?
『なんじゃアンダー。ベジドラゴンの子供を捕まえていたが悪いか? おまえだって、女を売り買いしているだろう』
『あのなあ、良いとか悪いとかの問題じゃねえんだよ。ベジドラゴンを怒らせたら、マジにやべえんだよ』
『なに? どういう事だ?』
『大方、あんたらベジドラゴンを捕まえて、乗り物にでもしようと考えていたのだろう?』
『そうだが』
『ナーモ族で、それを考えた奴が今までいなかったとでも思っているのか?』
『いたのか? まあ、おまえみたいな奴がいるぐらいだから、いたのだろうな? しかし、なぜ今は、やっていない?』
『前にも、ベジドラゴンを家畜にしようとした村や町があったんだよ。どうなったと思う?』
『どうなったのだ?』
『数百頭のベジドラゴンがやってきて、村や町を完全に埋め尽くすまで、空から石を落とし続けたんだ』
『なんだと? ベジドラゴンに、そんな習性があるのか?』
僕はPC画面から目を離してミールの分身に顔を向けた。
「ミールは知ってたの?」
「ええ。ベジドラゴンは、普段大人しいけど、怒らせると大変なのですよ。それを知っているから、ナーモ族はベジドラゴンには気を使って接しているのです」
「じゃあ、ダモンさんがベジドラゴンを逃がそうとしていたのは、それを期待していたから?」
「ああ、たぶん、それはありましたね。でも、あたし達がベジドラゴンを大切にするのは、決してそれだけじゃないですよ」
インド人が像と接するようなものかな?
PCに目を戻した。
ちなみにこの画像は、さっきネクラーソフの馬車に忍び込ませた蛇型ドローンから送られてきた物。奴らの通り道の草むらに十台ほどドローンを撒いておいて、馬車が通りかかった時に忍び込ませた。その中の一台が、うまい具合ネクラーソフの車に入ってくれたのだ。
このまま城に潜入できたら、屋上まで行ってレーザー砲を破壊するのが本来の目的なのだけど……
PCに目を戻した時、兵士が報告を再開していた。
『確かにその後、ベジドラゴンが高空から石を投下してきました。これよって、かなりの負傷者が出ました。しかし、これも、カルル・エステス氏のレーザーで撃退できました』
『ふむ。そうか』
『ただ、その後で弾薬庫が爆発しまして、城が土煙に覆い尽くされてしまい、煙が晴れた時には、ベジドラゴンの姿はありませんでした』
ネクラーソフはアンダーに向き直った。
『アンダーよ。ベジドラゴンは、まだ襲撃してくると思うか?』
『俺の知ってる話じゃ、ベジドラゴンを怒らせた町への攻撃は七日続いたというぜ』
『ううむ。ベジドラゴンは、知能があると言っていたな。交渉で、和解することはできぬか?』
『できない事もないけどな。怒らせる前だったら』
『今からでは、手遅れという事か?』
『どっかの町長だか村長だかが、ベジドラゴンの長老に平謝りに謝って許してもらったって話も聞いて事あるぜ。つまり、ここで一番偉いあんたが頭を下げれば、あるいは許してもらえるかもな』
『かもしれないとは、不確実な情報だな』
『だから、許すかどうかは、ベジドラゴンの気分しだいって事だ』
『なるほど。そういえば、お前がミールに捕まったのは、ベジドラゴンの子供に騙されて拉致されたからだと言っていたな』
『ああ、そうだが』
『ミールの仲間たちと、ベジドラゴンが最初から手を組んでいたという事はありうるか?』
『さあ、どうかな?』
当たらずとも、遠からずだな。
アンダーを拉致した時点では、エシャーには協力してもらっただけだが、さっきの攻撃の後、僕たちはベジドラゴンの長老と会ってミール救出のために手を組むことになったのだ。
明日にでも、城への再攻撃をかける事になっているのだが、そのためにレーザーを黙らせる必要がある。
このドローンは、レーザーを黙らせる作戦その一なわけだ。
不意に馬車の動きが止まった。
どうしたのか? と思っていたら御者が窓から顔を出してきた。
『ネクラーソフ閣下。カルル・エステス氏が、面会を求めていらっしゃっています』
『面会? わざわざ来なくても、城で待っていればよいものを』
『それが、火急の用事のため、城に入る前にぜひ会いたいとのことです』
どうやら、作戦その一は失敗かな?
カルルがここまできたという事は、たぶんこの作戦に気が付いたのだろう。
『せっかちな奴だな。まあいい、通せ』
カルルが馬車に入ってきた。
ん? 顔に酷い引っ掻き傷。どうしたんだろ?
『夜分失礼します。ネクラーソフ閣下』
『どうしたと言うのだ? 城で待っていればいいものを……その傷はどうしたのだ?』
『ミールに、激しく抵抗されまして……』
抵抗する術がなかったのでは……いや、嘘だと思っていたけど……
『それは大変だったな。それで火急の用とは?』
『この馬車の中で、探し物をさせていただきたい』
カルルはアンテナを差し出した。これでドローンの電波を探す気か?
『何を探すと言うのだ?』
『敵のスパイです』
『スパイだと? この中にか?』
ネクラーソフの視線がアンダーに向かう。
『え? ち……違う! 俺はスパイなんかでは』
まあ、この中で一番信用がないのは、こいつだからね。
『閣下。スパイは人間ではありません。こいつです』
突然、映像が乱れた。
ドローンがカルルに掴みあげられたようだ。
映像が安定すると、ネクラーソフの顔面アップが映っていた。
『なんだ!? この機械は?』
どうやら、ネクラーソフが覗き込んでいるようだ。
『閣下。これもドローンの一種です。隙を見て、馬車に入り込んだのでしょう。そうなのだろう? 北村海斗』
しょうがないな。
スピーカーのスイッチを入れた。
「ばれてしまっては仕方ないな」
て、まるで悪役のセリフだね。
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