第43話 な……なんか、数が増えてるんですけど……

 大きな火の近くまで戻ってくると、二人の帝国兵がナーモ族の老人を殴っているところだった。


「何をしている?」


 二人の帝国兵は、ナーモ族を手放して敬礼する。


「ドロノフ曹長。さきほど、我々がここを通りがかったところ、十五名の兵士が死亡しており、この者達が逃亡を謀っておりました。そこで何があったのか、自分達はこの者を問いただしていたのであります」

「やめよ。その者は、何も知らぬ」

「は?」

「兵士達が、どのように死んだかというのだろう」


 ドロノフは、もう一人の兵士の顔を指さす。


「あの……曹長殿……いったい?」


 突然、兵士の額に赤い穴が開いた。


 そのまま、兵士は後に倒れる。


「ここの兵士達は、皆このように死んだのだ。ナーモ族に責任はない」


 もう一人の兵士は、倒れた同僚に驚愕の視線を向けた後、ドロノフに視線を戻す。


「おまえ……ドロノフ曹長ではないな!」

「やっと気がついたか。だが遅い」




 僕は、兵士の眉間に狙いをつけてトリガーボタンを押した。


 よし。周辺には、もう赤外線源はない。


「ミール。ドロノフにドローンを降ろさせて」

「はーい」


 ドローンの高度が十分に下がったところで、ミールがマイクを取った。


「お爺ちゃん。お爺ちゃん」


 地面に横たわっていたナーモ族が起きあがった。


『その声はミールか? おまえまで捕まったのか?』

「違う。あたしは安全なところにいるわ。この男は、あたしの魔法で作った分身」

『そうだったのか。しかし、なぜ帝国兵が死んでいる? これも、おまえの魔法か?』

「これは、日本人がやったの」

『日本人? しかし、ここは遠すぎるぞ』

「ベジドラコン達が噂していたでしょ。塩湖に降りてきた人よ」

『おお! レッドドラゴン一万頭を殲滅したとかいう』


 な……なんか、数が増えてるんですけど……


 僕が殺したのは一頭だけだって……


「それは嘘だって。当の本人が聞いて驚いたいたわ」

『嘘なのか?』

「それより、これはどういう事? みんな逃げられたんじゃなかったの?」

『隠れていた鍾乳洞が、奴らに見つけられてしまったんだ。まさか、こんなに簡単に見つかるとは……』


 つけられたのか?


「とにかく、今後こそ、みんなを安全なところへ逃がすわ。今から生き残っているみんなを集めてちょうだい」


 しばらくして、ナーモ族たちが集まってきた。


 しかし……


「これだけ?」


 集まって来れたの七人だけ。


『まだ、生きてる者もいるが、鎖が外せなかったり、立ち上がる気力もないほど衰弱しておる。わしらも、自分一人動くのがやっとで、とても担いでは……』

「そんな……」

「逃げるのは、よそう」

「え?」


 ミールは僕の方を振り返った。


「ここは、君たちの村だ。取り返せばいい」

「でも……」

「赤外線源を見たところ、帝国兵の残りは八十人。皆殺しにすればいい」


 自分で言ってゾッとした。


 僕は、人を殺すことへの抵抗が、無くなってきているようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る