第44話 銃を持っている奴は分身だ! 持っていない奴はよく訓練された分身だ!

 ドロノフは再び屋敷に戻ってきた。


『よお。ドロノフ。翼竜はどうだった?』

『ダサエフ大尉。それどころじゃありません。魔法使いの分身どもが潜入しています』

『なに!?』

『すでに何人もの犠牲者が出ています。分身魔法を見破る道具は、まだありますか?』

『バカ野郎! あれは、全部お前の隊に預けただろう。ここには一つも残ってない』



 それは好都合。




『そんな物なくたって、あの小娘を見かけたら捕まえればいいだけの事だろ』

『それが、魔法使いは、我々帝国軍兵士の分身を作っているのです』

『なんだと!?』




 別の分身に持たせたカメラに切り替えた。




 火を囲んで酒を飲んでる兵士たちが映る。


『おい! 大変だ! 魔法使いの分身が潜入しているぞ』

『なに?』




 また、別のカメラに……




『魔法使いの分身が潜入したぞ! 分身は我々と同じ姿をしている。気をつけろ!』


 

 よしよし。噂は広まっているな。




「カイトさん。分身がいる事をばらして、どうするのですか?」

「ご主人様。これじゃあ、せっかく潜入させた分身が……」


 ミールとPちゃんに、僕はスマホをかざした。


「うん。分身がいることが分かっちゃったね。でも、それが分かったとして、どうやって分身を見分けるんだい? これがないのに」

「あ!」

「なるほど」


 そう。帝国軍の中に、分身が紛れ込んでいる。


 しかし、見分ける方法がない。


 それが知れ渡ったらどうなるか?


 こうなると、隣にいる戦友も、上官も部下も信用できなくなる。


 どいつが、分身か分からないから……


 さらにドローンからの狙撃で兵士が倒されていけば、いつ自分が分身に殺されるかという恐怖に駆られて、同士討ちを始めるかもしれない。


 ちなみに分身たちは、銃は使っていない。


 ただ、ひたすら『分身がいるぞ』と噂を広めているのだ。『類似品にお気を付け下さい』と類似品に書くようなもんだね。


 この場合、分身たちには銃を持たせない方がいい。


 分身は銃撃してくる。


 ならば、銃を手にしている奴が分身だと兵士たちは思うだろう。


  

 銃声が、ここまで聞こえてきた。


 どうやら、同士討ちが始まったらしい。


 PC画面に目を向ける。




 分身の一人が、スマホを出して適当な兵士に向けた。


『あいつだ! あいつが分身だ』

『え? おれ……』


 指を挿された兵士は、意味が分からないでキョトンとしている。


 そこへ他の兵士たちが殺到してきた。


『この分身野郎!』

『ぶっ殺してやる!』

『違う! 俺は分身じゃない』

『黙れ! 分身はみんなそう言うんだ』




「カイトさん、さすがですね。分身に、こんな使い方があるなんて思いつきませんでした。籠城戦の時に、この手を使っていればもう少し持ちこたえられたのに」

「ところで、ミール。分身は撃たれても平気なのかい?」

「まったく平気というわけではありません。ただ、複雑な臓器がないので、心臓など人間の急所を突かれても大丈夫です。ただ、身体を動かすために筋肉のような組織があって、それを破壊されると動けなくなります。そして、身体の半分以上を削られたら消滅します」


 不死身ではないんだ。


「それとですね」


 ミールはポケットから木札のような物を取り出した。


 なにやら複雑な文様が描きこまれている。


「分身の胴体に、この木札が入っているのです。これを破壊されたら、消滅します」


 使徒のコアみたいな物か。

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