第42話 檻の中のエシャー

「ピー!」


 不意にロットが鳴いた。


 どうしたんだ?


「ピー! ピー!」


 ロットの見ているのは、ドロノフのカメラ。


 檻に閉じ込められているエシャーの姿があった。


 


 よかった……無事だった……





 ドローンの映像をチェック。


 エシャーの周辺には、ドロノフと案内の衛兵と、檻の周囲を照らしている篝火以外に赤外線源はない。


 見張りはいないのか?


 篝火の下には、見張りが使っていたと思われる椅子はあるが……


 檻には閂はかかっているが、鍵のようなものはない。


 いや……鍵は必要なかった。


 エシャーの足には鎖が繋がれていた。


 ひどいことを……


「ミール。案内の兵に帰るように言ってくれ」

「はーい」


 帝国兵の赤外線源が離れていく。


「エシャーは、ナーモ語が分かるはずだ。ナーモ語で話しかけてくれ」

「無理です。ドロノフの頭にナーモ語の知識がありません。本人の知らない言葉は話せないのです」

「無理か」


 映像を拡大してみた。


 エシャーは目を瞑っている。


 その閉じた瞼から、涙のような液体が流れていた。


「ピー!」


 ロットがそれを見て一際高く鳴いた。


「ロット。待ってろ。今、ドローンをお姉ちゃんの近くに降ろすから」

「ピー?」


 しかし困った。飛行船タイプのドローンは、ある程度高度は下げられるが着陸はできない。降ろす時は、ロープを降ろして下から引っ張ってやらなきゃならない。


 ヘリコプタータイプでは、音が煩くて敵に気が付かれるし…… 


 


 あ! 引っ張れる奴がいるじゃないか。




 ドローンのカメラを下に向けた。


 下でドロノフがロープを引っ張っている。


 やがて、エシャーの檻が覗ける高さになった。


「エシャー、聞こえるか?」


 エシャーが目を開いた。


「ピー」

『ロット? カイト?』


 エシャーは、キョロキョロと周囲を見回す。


「エシャー。ドローンが見えるか? 今、僕とロットはそれを通じて話している」

『ドローン、見エル! カイト、ロット来テクレタノ?』

「ピーピー」

「今、僕たちは近くに来ている。必ず助けに行くから、待っていてくれ」

『ウレシイ、檻ニ閉ジコメラレテ、凄ク怖カッタ』

「君を見張っている兵士は、いなかったかい」

『イタ、デモ、呼バレテ、大キナ火ノ方、行ッタ』

「大きな火? あ!」


 さっきナーモ族を拷問していた奴ら……


 あの中にいたのか。


「まいったな。足鎖の鍵はたぶん見張りが持っていたはず……」

『鍵? ソレナラ、椅子ノ上』

「え?」


 本当だ。椅子の上にあった。


「あの、カイトさん。そのドローンを、村の人達のところにも、行かせてもらっていいですか?」

「え?」

「みんなに状況を説明しないと、勝手に動き回っては、また帝国兵に捕まってしまいます」


 そうだった。でも……


「他の分身で、ナーモ語の話せる奴は?」

「一人もいません。ですから、そのドローンという機械を使わせて頂きたいのですが」

「それじゃあ仕方ないな」


 ドローンは、あと二つあるが上空から帝国兵の動きを見張るためには、これ以上減らせないし……


 エシャー、必ず助けにいくから、待っていてくれ。

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