第四章

第19話 猫耳少女と帝国軍

 村は、紅蓮の炎に包まれていた。


 炎の中を、住民達は逃げまどう。


 だが、必死の思いで逃げ延びてきた人々に、無慈悲な銃弾の雨が降り注いだ。



「やめて!! 」



 凛とした、少女の声が響きわたった。


 声の主は、白い貫頭衣をまとった十五~六歳ぐらいの少女。


 栗色のショートボブから猫耳が覗いている。


「あなた達の狙いは、あたしでしょ!! 村の人たちに手を出さないで」


 悪鬼の如く、村人に銃撃をしていた軍団の攻撃がピタッと止まった。


 隊長とおぼしき男が、兜の中で邪悪な笑みを浮かべ、頭に猫耳のある少女を見つめた。


「やっと出てきたか。嬢ちゃん」


 隊長は、現地語で言った。


「最初から素直に出てくれば、村が焼かれる事も無かったのにな」


 嘘八百である。


 少女を確保できたら、この男は村を焼きつくして略奪の限りを尽くすつもりでいた。


「大人しく同行します。ですから、村の人たちを逃がして下さい」

「ダメだと言ったら?」

「魔法で、あなたを殺します」


 隊長は苦笑を浮かべた。この少女が魔法を使えるという情報はもっていたが、それがどんな魔法かは聞いていない。


「おお。怖い怖い。おまえは、魔法で人を殺せるのか? では、村人を逃がした後で、おまえがそれを使わないという保証はどこにある?」

「あたしの魔法では、あなた一人しか殺せません。その後であたしは、あなたの部下に殺されます」

「いいだろう。おまえら! 村人を逃がしてやれ。でないと俺が殺されるからな」

「え? 村人を殺したらダサエフ隊長を殺してくれる。じゃあ、村人を殺さないと」


 よけいな軽口を叩いた部下に、ダサエフは銃を突きつける。


「なんか言ったか? てめえ」

「じょ……冗談ですよ」




 ズキューン!!




 銃声が響いた。


 軽口を叩いた部下の鎧に、小さな穴が開いている。


 穴から血が流れ出し、やがて男は倒れた。


「笑えねえ冗談だな」


 数分後、村人達は森の中へと消えていった。


「さあ、約束だ。俺たちと来てもらおう」


 少女は、馬車に乗せられ連行されていく。


 だが、一時間後、ダサエフ達が馬車の中を見たとき、少女の姿はどこにもなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る