第20話 人工知能に感情はあるのか?

 鬱蒼とした森の中に、その集落はあった。




 やっとたどり着いた!




 リトル東京。


 エシャーの言うとおり、小さな集落だ。


 建物は、被災地でよく使われている仮設住宅みたいなのが三十棟ほど……


 建物の一つから、人が一人出てくる。




 あれは?




 白衣の女?




 東京で、僕をスキャナーにかけた女!?


「北村海斗さん。おひさしぶりです。もっとも、どちらもコピー人間ですけど……」

「あんた。自分のデータまで、とったのか?」

「ええ。そんな事より、あなたをお待ちしていた方がいます。こちらへ」


 彼女に促されるまま、僕は仮設住宅の中に入った。


 暗い部屋だ。


 奥にベッドが二つあり、その一つに誰かが寝ている。


「僕を呼んだのは、あんたか?」


 返事はない。


 不意に両腕を捕まれた。


 え? Pちゃん?


 二人のメイドさんが、両脇から僕の腕を掴んでいる。


 三人目のメイドさんが出てきて、両足を捕まれ持ち上げられた。


「何をする!? やめてくれ!」


 やめてくれそうにない。


 僕は強制的にベッドに寝かされ、拘束具で手足を固定された。


「よく来てくれたね。僕のスペアパーツ」


 その声は、隣のベッドからだった。


 隣に目を向ける。


「やあ」


 隣のベッドに横たわっていた男の顔は、紛れもなく僕だった。




「うわわわわ!!」




 眩しい明かりが、僕の目を襲う。


 手術灯か?


 いや……違う……太陽?


 あれ? 拘束されていたはずの手足が動く?


 ここは……?


 木と木の間に吊るしたハンモックの上で僕は寝ていた。


 そうだった。


 昨日たどり着いた川辺で、水素補給のために泊まり込んでいたんだった。


 それにしても、こんな夢見るのも、カルルの言っていた事がどうしても頭から離れないからだな。


 あの後、Pちゃんに聞いたが、ふつう臓器移植をやる時は、必要な臓器だけをプリントするから、人間一人丸ごとプリントするなどあり得ないそうだ。


 それで、納得したつもりだったのだが、どうしても心に引っかかってしまう。


「カイト」


 エシャーが、ハンモックの横に降りてきた。


「大キナ声、ドウシタノ?」

「エシャー。驚かしてごめん。怖い夢を見たんだ」

「怖イ、夢? 可哀ソウ、慰メテ上ゲル」


 え?


 エシャーは、僕の額に自分の額を擦り付けてきた。


 どうやらベジドラゴンは、こうやって仲間とスキンシップを取っているようだ。


「ご主人様! 今の悲鳴は、何事ですか?」


 Pちゃんが駆け寄ってきた。


「エシャーさん! ご主人様に、何をしているのです!」


 え? なんか誤解されたような……


 エシャーは僕から離れてPちゃんの方を向く。


「悪夢バライ、ノ、オマジナイ。イケナカッタ?」

「いけないも何も、ご主人様が悲鳴を上げているじゃないですか!?」


 えらい誤解だ!!


 僕はハンモッグから飛び降りて、Pちゃんの前に出た。


「さっきの悲鳴は、悪夢のせいだよ。エシャーはそれを聞いて……」


 状況説明に約三分かかった。疲れる。


「なんだ、そうでしたの。そういう事でしたら、私が慰めてさしあげましたのに」




 いや、お前はいい……




 悪夢の中で、お前に襲われたんだから……




 なんて事を口にできない。


 だって、そんな事言ったら、こいつ泣くし……


 こういう状況で泣くようにプログラムされているのだと思うが、最近は本当に感情があるような気がしてくる。


「Pちゃん、一度聞きたかったんだが、データがあるなら答えてくれ」

「なんでしょうか?」

「人工知能に、感情を持たせる事って、成功したの?」

「そ……それは……ですね……」


 ん? なんか口ごもっているぞ?


「人工知能にも二種類あります。プログラマーがゼロから作り出したものと、スキャナーで読み取った人間の記憶を加工したものと。前者に感情を持たせることは成功していません。しかし、後者には元々感情があります」


「君は、どっちなの?」

「私は……後者です」

「じゃあ、君は誰かの記憶を加工したのか? でも、それって人間と変わりないのでは?」

「それに関しては、結論が出ていません」


 だとすると、Pちゃんの感情って本物だったのか? やべえ……今まで、結構傷つく事言っちゃっていたぞ。


「その……すまなかった」

「なぜ、謝られるのですか?」

「その……Pちゃんは、感情があるように振る舞っているだけかと思っていたので……いろいろと酷い事を言ってしまったとか……」

「どうか、その事は気になさらないで下さい。私の感情は、あくまでも人間と上手に接するための機能です。悪影響が出そうなときは、自動的にブレーカーが落ちますから。まあ、たまに意地悪な事を言っちゃうかもしれませんが……」


 時々、ムカつく事言うのは、そのせいか。


「カイト、チョット、オ話、イイ?」


 いけない。エシャーの事を忘れてた。


「そういえば、エシャーはどうしてここに?」

「今朝、ココニ、カイト、見ツケタ。デモ、寝テタカラ、起キルノ、待ッテタ」

「そいつは悪かった。起こしてくれれば、よかったのに」

「起コス、可哀ソウ」


 エシャーは、優しいなあ。


 話を聞いてみると、昨日あたりからエシャーのお父さんが飛べるようになったらしい。


 その時に、近くに落ちていたレッドドラゴンの尻尾……僕が棍棒代わりに殴ったやつ……が落ちていたので、ナーモ族の村まで運んだそうだ。


 ナーモ族は大喜びで、いろんな物と交換してくれたらしい。


 どうやら、レッドドラゴンの肉はナーモ族にとって、珍味だったようだ。


 それで、エシャーはお父さんに言われて、僕におすそ分けを持って来たという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る