第二章

第3話 ここは何処だ?

 いつの間にか僕は夢を見ていた。


 夕陽がさす土手の上を、中学の制服を着た僕が歩いている。


 昔の記憶のようだ。


 誰かに呼び止められたような気がして振り向く。


 同じ中学の制服を着た少女がいた。


 香子きょうこ? 


 香子は、僕に向かって何かを言っている。 


 だが、声が聞こえない。











 そこで目が覚めた。


 徐に目を開く。


 あれ? ここは何処だ?


 見覚えのない部屋?


 装置の中で眠りこけて、別室に運ばれたのか?


 ん? 起き上がれない?


 これが金縛りという現象か?


 いや、違う。


 どうも僕の身体はリクライニングシートのようなものに寝かされ、シートベルトで固定されているようだ。


 ならばシートベルトを外せばいいのだが、どうやったら外せるんだ?


 人を呼ぶか? 部屋の中には人の気配がないな。


「すみません。誰かいませんか?」

「どうかなさいましたか?」


 女の声で返事が戻ってきた。


 しかし、人の気配は相変わらずない。


 声の主は別室にいて、スピーカーを使っているようだ。


「シートベルトが、外せないんですけど……」

「もう少しお持ちください。シートベルトは、大気圏突入が終われば自動的に外れます」


 なあんだ、大気圏突入が終われば外れ……大気圏?


「あの……大気圏て?」

「大気圏とは、大気の球状層。惑星や衛星など大質量天体を取り囲む気体の事です」


 いや、そんなウィキを丸読みしたような答えを聞きたいのではなくて……


「なんで、大気圏に突入するんですか?」


 いや、その前にいつ僕は大気圏外に出たのか聞くべきでは……


「惑星上で、あなたを待っている人がいるのです」


 惑星上?


「なんで、そんな言い方するの? 惑星上って……まるで地球じゃない惑星に、降りるみたいに聞こえるんですけど……」

「はい。地球じゃありません」


 そうか。地球じゃないのか……え?


「は……今……なんて……?」

「地球じゃありません」

「……え?」

「地球じゃありません。大事なことなので、二度言いました」


 いや、あんた三回言ってるだろ。


「えっと……地球じゃないなら……いったい僕は、どこに降ろされるのかな?」

「惑星です。名前は、まだありません」


 猫じゃねえぞ!


 てか、冗談はいい加減にしろよ。


 こんな下手な嘘に騙される奴いるかよ。


 確かにこの部屋、宇宙船の中のように偽装しているけど……ん?


 なにかが、目の前を過ぎった。


 掴んでみる。


 ボールペン? これ、僕の胸ポケットにさしていた奴。


 いつの間に外れたんだ?


 いや、それより、なんで空中に漂っていたんだ?


 そういえば、僕の身体、妙に軽い。


 ていうか、さっきから重さを感じない。


 この感覚……どこかで?


 そうだ!


 昔、どっかの遊園地のアトラクションで……高いところから落ちるゴンドラの中で体験した感覚に似ている。つまり、この部屋は落下しているって事?


「なあ、なんかこの部屋、無重力になってない?」

「はい。無重力状態です」

「なんで?」

「現在、私たちは自由落下状態にあるからです」


 いや、そんな事はわかっている。


 僕が聞きたいのは、なんで自由落下状態になってるのかであって……なんか、ロボットと喋ってるみたいだな。


「君ねえ、そのコンピューターみたいな喋り方、何とかならない?」

「そう言われましても、私コンピューターですし……」

「コンピューター……?」

「はい。私はこのスペースシャトルの船載コンピューターP0371です。Pちゃんと呼んで下さい」

「Pちゃん……て……」


 あんまし、コンピューターらしくもないな。

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