第4話 大気圏突入

「これから、大気圏に突入します。しっかり掴まっていて下さい」

「掴まって下さいも、何も、僕の身体ならシートベルトで……のわわわわ!!」


 突然、船体が大きく揺れた。


 同時に、強い力で僕の身体はシートに押しつけられる。


 大気制動によるGか?


 しかし、だとすると僕はマジに宇宙にいるのか?


 宇宙船ぽい部屋を擬装する事はできるが、無重力状態やこの強烈なGは擬装できない。


 無重力を擬装するとしたら、飛行機に乗ってうんと高いところから急降下するという方法があるが、僕が目を覚ましてから今まで、ずっと降下を続けていたとしたら、とっくに地面に激突しているはずだ。


 しかし……なんでこんな事に……


 本当なら今頃、五十万受け取って帰っているはずなのに……


 まてよ。これは人体実験ではないのか?


 装置の中で眠り込んだ僕は……いや、もしかするとあれは麻酔で眠らされたのかもしれん。


 眠らされた僕は、東京から種子島まで運ばれて、新開発の大気圏突入カプセルに押し込められて、H2ロケットで打ち上げられた。


 そして、今から大気圏突入試験に入る。


 中にいる検体……つまり僕が生きていたら成功。


 ライカ犬かよ! 僕は……


 五十万なんて高額報酬を出す本当の理由はこれだったのか。


 て、ことは香子もこれをやったのか?


 やったから、誘ったんだろうな。


 じゃあ、それ程危険はないのかな?


 香子が僕を危険な目に遭わすわけないし……


 Gが弱くなってきた。


 そろそろ大気圏突入も終わりかな?


 ドカン!!


 突然、轟音が鳴り響くと同時に大きな揺れが伝わってきた。


「おい! Pちゃん。何があったんだ!?」

「攻撃です。当機は只今、戦闘用ドローンから攻撃を受けています」

「攻撃って? 誰から?」


 僕の質問は、轟音にかき消された。


 大きな揺れが伝わってくる。


 大丈夫か? おい……


「VTOLシステム損傷」


 VTOLって、オスプレイみたいな垂直離着陸機の事だよな。


 このシャトル、そんな機能があったんか?


 でも、それが壊れたって事は地表に降りれないって事かな?


「申し訳ありませんが、本来の着陸予定地には、着陸できなくなりました」

「本来の予定地ってどこ? 成田? 関空? それともセントレア?」

「ですから、ここは地球じゃありません」

「いい加減にしろよ。こんな短時間で、どうして地球以外の惑星に行けるんだよ? 僕が寝ていたのは、長くても一時間。火星どころか、月にだって到着しやしない」

「それは、認識が間違っています」


 どう間違っているんだ? と言おうとしたとき、また、轟音が響いた。


「おい! この飛行機、大丈夫か?」

「飛行には支障ありません。緊急着陸可能なポイントSへコースを変更します」

「なんで?」

「本来の予定地には、滑走路がありません。VTOL機能を失ってしまっては、着陸できないのです」

「ポイントSとやらには、滑走路があるのかい?」

「ポイントSには……キャー!!」


 突然の轟音によって、Pちゃんの声は途切れた。


「おい、Pちゃん。どうしたんだ?」


 それっ切りPちゃんは、ウンともスンとも言わなくなった。


 さっきの一撃で、メインコンピューターをやられたのだろうか?


 哀れPちゃん。コンピューターにも魂があるなら冥福を祈る。


 いや、祈ってる場合じゃない。


 Pちゃんがやられたとしたら、今度は僕がやばいじゃないか。 


 このままじゃ墜落するぞ。


 なんで、こんな事になったんだ!?


 ただの大気圏突入実験で、なんで攻撃されなきゃならないんだよ。


 くそぉ! こんなの五十万じゃ割りにあわん。


 生きて帰れたら、絶対訴えてやる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る