008:ソロが一番気楽だと思う
ガラじゃない。わたし、もっと利己的だし。
『世界を救うために仲間を集めよう』なんて言ってはいたけど、実は自分の生活を犠牲にしてまでやるつもりはなかったし。
友達のために命を捨てるような熱血でもないし。
そもそもあいつは友達ですらないし。
だから、
「そうだよ、ばかばかしい。なんでわたしがそんなことするの」
「あいつのために死ぬとか、ありえない」
乗せた片足に力を込めながら、続けてつぶやく。
「だから、生きて連れ帰るし、わたしも当然死なないし」
視界が突然高くなった。
アーノルドにまたがったわたしは、背後に静かに控えている
彼女の表情には一切の迷いは無い。ただ、わたしの声を待っているんだ。
それが、何より頼もしい。
「行くよ
☆★☆★☆★☆★☆★
《エシ・ロスの地下広場》は、首都・イシ・ロンデ市から2日ほどの距離にある古代都市の遺跡……らしい。
『らしい』というのは、そうと推察される以上のことがまったくわからないから。
ちなみに、遺跡やダンジョン等の冒険者の活動が見込まれるスポットには、近隣の厩舎から《ゲート》で転移ができるようになっている。この世界では、魔術師が自由に呪文で転移をすることはできない。要するにルー○みたいな呪文がないわけ。代わりに、大規模な儀式魔術で双方に出入り口を作っておけばそこにだけ飛べる門が作れるんだよ。
この門は常に複数の国家魔術師が管理していて、許可がない人や物が利用することはできないようになっている。だから、モンスターがとつぜんに街中に送り込まれたりすることはないんだ。ていうか、街の方から転移した人以外は、ダンジョン側のゲートは使えないようになってるからね。往復切符専用、って感じ?
あ、話を戻すよ。
地下に広がるいくつものブロックに整然と区切られた石畳の広場である以上は、自然に生まれた地形であるとは考えられない。当然のこととして、発見直後には大規模な調査団が送り込まれることになった。
だけど、彼らは誰一人として、帰ってくることはなかった。
その後の冒険者や騎士団で編成された捜索チームの報告によって、驚くべき事が判明する。かの
「内部に火を放って蒸し焼きにしろ」
「入り口を崩して絶対に出てこないようにすべきだ」
首都から2日の距離に最強の魔獣がひしめくダンジョンがある。
これには、過激な意見まで含めて、様々な対策案が練られた。
そんなとき、何度目かの強行調査隊が、ある事実に気がついた。
ドラゴンたちは『出入り口から2ブロックまでの地点には、決して進入しようとしない』ということ。
具体的な調査は不可能だけど、恐らくその辺りに結界のようなものが張られているのだろうと推測された。
かくして『封印』を壊すおそれを抱いたままドラゴンの群れを攻め滅ぼそうとするよりは、現状のままで監視を続けるべきとの結論に達した。それが約50年前のこと。
それからしばらくは、ドラゴンの皮や肉の収穫場所として役立っていた。もちろん、相応の犠牲者と引き換えに。
いや……釣り合ってたのかどうかは疑問だけどね。
ところが、ここ最近はまた様子が変わってきて……っと、歩きながら説明をしてきたけど、そろそろやめとこう。このブロックから先は、ドラゴンがいつ襲いかかってってきてもおかしくないんだから。
「
危険エリアに入る直前。耳を澄まし目を凝らす。
言うまでもなくドラゴンはその体格から隠密行動には向いていないから、注意さえしていれば不意打ちを食らうことはまずない。もっとも出会い頭に見つかってしまうことはあるし、その場合に逃げられるかどうかはまた別の問題だけどね。
ここにきたのは初めてじゃないけど、そのたんびに言いようのないうそ寒さを感じる。
この先には確実にあの巨体のドラゴンが群生しているはずなのに、物音一つ聞こえない。どれだけ広いの、この地下空洞。最奥部までたどり着いた人は……少なくとも、たどり着いて生きて戻った人はいないダンジョンの本当の入り口に、わたしは何度目かの足を踏み入れた。
「
Guoaoooooooooooowww!!
捜索を開始して5分ほどの間に、2匹のドラゴンに遭遇してしまう。
幸いなことにどちらも単体で動いているやつらだったから、マリエルだけで対処できた。
わたしのアーノルドは、野生のドラゴンとも一対一ならまず負けないくらいに練度が高い
キズは治療で治せても、スタミナが戻るまでには時間がかかるんだ。
Zuuuuuuuuuuum
野生のドラゴンの巨体が傾いだかと思うとそのまま石畳に沈む。
「皮を持って帰りたいところだけどね」
そんな余裕があるはずもない。
連戦で少し疲労が見えてきたマリエルに、倒したドラゴンを食べさせた。
共食いになるわけだし、何回目にしてもあんまり気持ちのいい光景じゃないけど、実のところは彼らの生態に背くものではないんだよね。
魔獣はだいたい共食いが当たり前だから、問題ない。
わかってる。欺瞞だよ。
だけど、テイマーは自分もペットも騙し続けてなんぼの商売だもの。
おばあちゃんも言ってた。
そういえば、テイマーってこの世界での子供の憧れの職業の一つなんだよ。特に小さな女の子に人気がある。動物とずっと仲良く旅をするのが楽しそうなんだってさ。
「あはは、やってみるとこんな3K商売なんだけどね」
一人でこんなところに居ると、際限なく卑屈になっていく気がする。
いけないいけない。ポジティブポジティブ。
「ブルルルル」
「ああ、ごめん。1人じゃなかった。3人だったね」
よし、マリエルに包帯を巻き終えた。
もちろん、ここで言う包帯はただの包帯じゃない。あ、訂正。包帯そのものは布でできたただの包帯だった。
違うのは、効果と用法。
テイマーが修めている獣医学や動物解剖学を元に魔力を通してペットに巻くことで、強力な治癒魔法と同等の効果を発揮することができちゃうんだ。
直に治癒魔法を使えばいいじゃないかって? だめだめ。ドラゴンの
包帯に魔力を通して巻くことで、何倍も効果的に回復することができるんだよ。さらに、この『
「ま、いいとこばっかりじゃないんだけどね」
休憩は終わり。さらに先に進むよ。
「だいたいさ、ここ、大平原みたいなものだよ。普通のダンジョンみたいに道があるわけでもないんだし」
こんなところで人一人を探すのは、干し草の中から針を探すようなものだと思う。もう帰ろうかな。
「でも、あっち行ったら、あいついるかも。
テイマーの職業病の一つに『独り言が多くなる』がある。
いや、正確には独り言じゃなくてペットに話しかけているわけだけど。
……あれ? やっぱり独り言かな。
「ブルルルル」
ほら、返事してくれたし。会話だし。
って、違うね、これ。
ずしん、ずしん。
かすかに思い足音が聞こえてくる。
ドラゴンだ。まだこちらには気付いていない。
「二人とも、静かにね」
小声でペットに語り掛けつつ、気配を探ってみた。
チラッ。またがっているアーノルドの身体に緊張が走るのがわかる。
これ、見つかるといやだな。あっち行ってくれるといいな。
わたしは普段の行いには自信がありまくる。
果たして、足音の主はわたし達から遠ざかり、やがてなにも聞こえなくなった。
「ふ~……静かに進もう。マリエル、おまえ、すり足で歩ける?」
自分のペットの顔色くらいは読めないと一流のテイマーとは言えない。
うん、マリエルはとっても困った顔をしてた。
その後、1時間ほどは何事も無く進むことができた。
ここはドラゴンが支配している空間だから、いわゆるザコ敵は一匹も出てこないしね。
……あれ、ってことはドラゴンはいつもなにを食べてるんだ?
共食いもするけど、それが食生活の中心になっているわけじゃないはずだけど。
つくづく謎の多い空間だ。
それどころじゃないのはそうなんだけど、やはり未知のダンジョンを訪れれば知的好奇心が刺激されるのはしょうがない。
「ブルルルル」
「え、なに。どうしたのアーノルド」
わたしの指示もなく歩みを止めたいうことは、なにか異常事態だとは思う。
なに? なにか、いる? あそこ、太い柱の陰? 大きさからしてドラゴンじゃないね。しばし考える。そして。
「
こういう場所では、目の前数歩分だけ明るくする魔法を使って進むのが常。
こんなに煌々と照らしたら襲ってきてくれと言うようなもんだもんね。
でもさ、ここ、あんまり目立たない感じじゃない?
「ね。静里奈」
「……ミント。あなた、こんなところでなにしてますの? あと、まぶしいですわよ」
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