幸せとシアワセと不思議な眼

MEME

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福庭ふくば 紫苑しおん(女・6歳) 眼有

葉心はごころ 海未うみ(女・8歳) 眼有

小川おがわ 優人ゆうと(男・9歳) 眼無

御崎みさき 遊華ゆうか(男・7歳) 眼有


色々なものが散乱する部屋の中。机の上の小さなメモに殴り書きのような汚い字で4つの名前と性別、歳。加えて眼の有無が書かれている。

真っ暗だった部屋に一筋の光と細長い人影が作られる。誰かが部屋の扉を開け中に入ってきたのだろう。その人影は真っ直ぐに机に向かいメモを見る。

そして小川優人。眼の無い子どもの名前に赤いペンでばつ印をつけ部屋から出ていった。


ーーーーーーーーー


子どもが幸せを掴むことを義務としているこの国では、あることを確認するため皆6~10歳なるまでは施設で暮らすことになっている。

そこでは稀に不思議な眼を持ち生まれてくる子どもがいる。

例えば、他人がこれまでに着重ねてきた人生の服を視ることが出来る眼。

例えば、他人の会話に咲いた花を視ることが出来る眼。

例えば、他人の心の奥底にねむる本音を視ることが出来る眼。

今あげた眼は数多ある種類のほんの一部の例にしか過ぎない。

不思議な眼はオトナになるにつれ普通の眼に変化していく。

先程言ったあることと言うのはこの不思議な眼を持っているか否かだ。

普通の眼の子は普通の幸せを掴むことが出来る。

そのため施設を出て親元に帰される。

だが不思議な眼の子は普通の”幸せ”を掴むことが出来ず、自分なりのシアワセを掴むまで施設から出ることが出来ない。

不思議な眼の子は、親の元に帰るため、シアワセになるため、必死にもがいてそれを掴む。


これは3人の不思議な眼を持つ子どもたちがシアワセをつかむまでの短くて長い数年間のお話だ。


ーーーーーーーー


>>葉心 海未


「なぁおじさん優兄ちゃんは?」

遊華が隣に立つ男を見上げ尋ねる。

「彼は里子に出されたんだ」

男はしゃがんで遊華と目線を合わせ微笑みながら答える。

「ここがしおたちの新しいお部屋?」

続いて紫苑が男に尋ねる。

「ああ、これからはずっと君たちだけのお部屋だよ」

先程まで遊華の方を向いていた男は紫苑の方に向きにこやかに答える。

「ほんと?じゃあこれからは海未ねぇと遊くんとしおでずっと一緒に暮らせるんだ!!」

その返事を聞き紫苑は大変はしゃぐ。遊華もそんな紫苑につられたのか一緒になってはしゃぎ出す。

私がそんな2人を1歩引いたところで眺めていると「海未さんはあそこに混ざらなくてもいいのかい?」と男に声をかけられる。

「はい、私はあの二人が楽しそうにはしゃぐのを見ているのが好きなんですよ」

笑顔をつくり答える。

「そうか」

男はそれに対し短くそう言った。

「優人がいないのって里子に出されたからじゃないですよね」

私は男の方を向かずに聞く。

「…は?」

少し間をあけてさっきよりも短く男が言う。

「優人は眼を持ってなかったから普通の生活を送って普通の”幸せ”を掴めるから。」

「……」

男は何も答えない。

「普通の”幸せ”を掴むことが出来るから親の元に帰ることが出来た」

私はかまわず話を続ける。

「私たちは眼を持ってしまっていた。あの二人は気づいてないかもだけどいずれ気づく。

眼を持っていては普通の”幸せ”はつかめない。普通の眼の親ではシアワセを掴ませることが出来ない。だけど今の時代シアワセを掴むのは子供の義務とされている。

だから眼を持つ子どもは集められ、シアワセを掴むためのグループを組まされる。

それが私の場合紫苑と遊華だった…って感じであってますか?」

言い終わり初めて男の方をむく。

「どうしてそう思う?」

男は白い顔でゆっくりと尋ねてくる。

「どうしてでしょうね」

私は微笑み答える。

「…もしかしてお前の眼は「海未ねぇも一緒に遊ぼ!!」

男が何か言おうとしたところで紫苑がそれを遮り私を呼ぶ。

「ごめんなさい。可愛い可愛いイモウトに呼ばれちゃったので」

それだけいいぺこりと頭を下げる。脇を通る時に話はまたいつかとだけ告げ、イモウトとオトウトの所へ向かう。

遊び始め少し経ってからさっきまでいた場所を振り返ると男はいなくなっていた。

私は他人の心の奥底にねむる本音を視ることが出来る眼を持っている。

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