#6

「うぅ…腕が痛い…」


昨日今日と大鎌を振り続けていたせいか、腕が限界を迎えていた。

いくらこちら側が安全でも、この大鎌を連続で振り続けるには無理がある。

安全地帯の外に出てゾンビを集めてから安全地帯に入る。

それの繰り返しだ。


「ふぅ…。そろそろ休憩にしようかなー」


そう思ったとき…


「ん? …水?」


ポツポツと雨が振り始めてきた。

初めは空を見上げた顔に数滴降ってくる程度だったが、すぐに体がビチョビチョになるぐらいの強さになった。


「うわっ!シェルターにもどらないと!」


大鎌をその場に捨て、シェルターにダッシュする。

急いでシェルターに戻ったが、服はびしょ濡れだった。

急に降り出した雨は段々と強さを増していく。


横殴りの雨がシェルターの窓にバチバチと音を立てて消えていく。

空は黒い雲で覆われていて一向に降やむ気配は見せなかった。


「この服どうしよう?」


よくよく考えれば転移したときからずっと同じ服を着ている。

転移する前に来ていたセーラー服だ。

とりあえず服を脱ぎ、棚に掛けておく。


「寒い…」


今の季節はわからないし、この世界に季節があるのかは知らない。

ただ、今の気温は地球の四季で表すと春の始めぐらいだ。

少し肌寒い。

まあ、体が濡れているのもあるだろうし今は肌着だけだ。


「あっそうだ。お風呂あったっけ?」


たしかこのシェルターにはまぁまぁ大きいお風呂があったはずだ。

リビングを出で廊下に出る。

廊下は外廊下のようになっているからまた少し濡れてしまった。


風呂場のドアを開け、電気をつける。

風呂場は共同浴場のような感じで、檜で出来ている長方形の浴槽は数人入っても余裕がある大きさだった。

しかし、浴槽にお湯は張られてなく乾ききっていた。

幸い汚れたり砂埃が溜まってはいないが、恐らくしばらく使われていないのだろう。


「お湯出るのかな?」


浴槽に向いている蛇口をひねってみたが水の1滴すら出なかった。


「やっぱり出ないか…」


まあ分かっていたことだが水すら出なかった。

しかし不思議だ。

このシェルターは電気は使えるのにそれ以外の水やガスなどは一切使えない。

よくわからない場所だ。


黒結晶を使って水を貯めることも考えたが勿体ないし、水風呂に入る気にはならない。

風呂が使えない以上、この部屋にいても無駄だ。

諦めてリビングに戻る。


「うぅ…寒い。くしゅん!」


これ以上このままでいたら風を引いてしまう。


「あ」


忘れかけていた手帳を思い出す。

クラフトのページに何か温まる物があるかも知れない。

そう思って手帳を開く。

パラパラとめくっているととある物を見つけた。


「熱.炎とお湯?」


それぞれ黒結晶消費量は1つと2つだった。


「ここで炎はヤバそうだな…」


床は木なのでもしかしたら燃えてしまうかもしれない。

なので、風呂場でお湯を試してみることにした。

黒結晶を8個持ち、風呂場にまた行く。


下着を脱ぎ、棚に置く。


「えっと…これでいいかな」


最初は少し怖いので地面に黒結晶を置いて試してみることにした。

置いたらお湯を願う。

すると、2つの黒結晶ちょっと浮いたあと1つに融合して周りにお湯を纏っていく。

湯気が上がっているので、ちゃんとしたお湯だ。

ちょっと指を突っ込んで見る。


「おぉー温かい!」


多分、40度前後のちょうどいい暖かさだ。

できたお湯の量は黒結晶1つの水より少し多かった。

お湯が生成し終わると地面におちた。


今度は頭の上らへんに黒結晶2つを掲げてお湯を願う。

お湯が出来たあと、頭からお湯をかぶる。


「あちち…」


冷えた体には40度前後のお湯でも熱く感じた。

それほど体は冷えていたのだ。


「あれ?」


ふと足元に違和感を感じる。

地面は冷えていてたとえお湯だろうと、地面に落ちればすぐに冷えるかと思っていたが、さっきクラフトしたお湯は温かいままだった。

恐らく、クラフトで作ったお湯は少しの間は冷えないのだろう。

便利なお湯だ。


持ってきた黒結晶をすべてお湯にし、体を温めた。

いつか、湯船にお湯を貼りたいものだ。


下着を絞って水を切る。

あまりきつく絞るとヨレヨレになってしまうので優しく絞ったが、水分が少し残ってしまった。

タオルがないので少しぴょんぴょんしたりして水を乾かした。


ベッドの上にあった薄い毛布を回収してリビングに戻る。

相変わらず雨は強かった。

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