水庭の夢

舞島由宇二

古夢

 太陽と決裂した。

黒い暗幕にくるまれた理科室は、もう長いこと誰とも口を聞いていない。

青いアクアリウムの光だけが理科室の微かな呼気を知らせる。


 ただ一人で、彼女はいつもその青い光を見つめていた。

 彼女はそこで、水庭の夢を見ている。


 時間のカタマリを押し拡げ、

時間のカタマリに潜り込み、

流れていた記憶は僅かずつに瞬間へと近づき、

――結晶化する。

 それら結晶を一枚一枚身体に貼り付け、彼女は囲われた水の中を泳いでいく。

 結晶は光るあざだった。

 彼女が泳ぐほどに、痣は反射した。


 彼女は大海を憶えていない。

 既に、彼女の中から巨大な流れの感触は消えていた。

 自身こそが光源なのだと一瞬でも思った彼女は、

水に映る自らの記憶だけをその瞳に光らせていた。


「独房からは白い月の灯りだけが見えていた。

 彼女を映す私自身もまた、この空間で完結した。」


 アクアリウムの青い水の中、彼女と彼女の影が重なり、

「それがようやくに、水庭の夢、」

 

 泡が一つたち、

 水面へと昇っていき、

 振り返ることなく、小さく割れた。










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水庭の夢 舞島由宇二 @yu-maijima

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