第6話 おわりに

おわりに


 双方向の戦いが楽しめる。これが日本拳法最大の面白みです。

 殴ることは殴られることであり、相手に攻撃されるとはそれがそのまま自分の攻撃となる。物事の真理、この世の定理を知るに、これほど直截的でわかりやすく、一瞬で体験できる武道・スポーツ・学問はないでしょう。

 釈迦は5年間の苦行と7日間の坐禅で悟りを開いたそうですが、日本拳法で一発ぶん殴られれば、誰でも頭がスッキリする。


 もはや自分自身で殴り合いなどできなくなってしまいましたが、切れの良い突きと蹴り、美しい審判の所作や白熱した時間の流れを実感したこの一日のおかげで、虚構の世界の中で鈍った人間本来の感性を取り戻せたような気がします。


 では、おまえは素晴らしい拳法や白熱する試合(ばかり)を期待して会場へ足を運ぶのか、と問われればそうでもない。

 例えば、今回の新人戦。

 部員もマネージャーもたくさんいる学校は、試合が終わって引き上げてくる選手たちの後ろから何人もの仲間がついてきて、歩きながら面だのグローブの紐を解いてあげている。


 一方、学連選抜の選手は、マネージャーはおろか部員さえ少ないので、グローブの紐だけは試合終了後に誰かに解いてもらい、そのあとは、自分一人で面や胴の紐を解きながら、とぼとぼ独りで歩いて帰ってくる。

 ちょっと寂しい姿ではありますが、ずっしりとした現実を実感させてくれました。 それは、パワフルな自衛隊や警視庁の拳法、激しい闘志のぶつかり合いを見せてくれた女子の戦いと遜色ないほど、印象に残る光景だったのです。


 何もかもが嘘ばかりで退屈なこの世の中、ディズニーランドやUFJでバカ面下げ、更なる虚構の世界に浸って自分の心を麻痺させるのも(息抜きとしては)いいのかもしれませんが、やはり真実の世界、リアリティー(実在)を実感しなければ、人間として存在することはできない。米映画「マトリックス」における「ザイオン」という現実の世界があってこそ、虚構の世界が成り立つのですから。



 今大会、日本拳法には2種類(自衛隊の日本拳法を含めれば3つ)あるということを痛切に感じました。

 子供の時から日本拳法をやり、明治や中央大学にスポーツ推薦で入り、4年間バリバリやって来た人たちや、そういう人のなかでも日本拳法の各大会で優秀な成績を収めた人ばかりを集めた警視庁の日本拳法倶楽部。大学日本拳法界におけるプロ級の方々です。


 一方、大学から殴り合い(日本拳法)をやり始めた人は、なんとか彼ら「大学前から組」に追いつき追い越そうと努力されているようです。


 そして、今回私が初めて見た、超人的なパワーで、格闘技(殺し合いの道具)としては最強の自衛隊パワー拳法。


 (40年前の大学生時代、日大と東洋で合同練習があり、日大OBで元キックボクシングの世界チャンピオンであった猪狩元秀という方がお見えになりました。で、ある重量級の学生(二段)と防具練習をしたのですが、開始15秒ほどで学生はノックアウトされてしまいました。猪狩氏から膝蹴りを受けたのですが、バキッという胴が割れる音と共に、その学生は気絶してしまったのです。

 猪狩氏の拳法というのは、日本拳法という枠を越えたものであり、自衛隊のパワー拳法の上位に位置するといえるかもしれませが、これを加えれば、4つの日本拳法があるということになるのでしょう。)


 私も「大学から組」ですが、大学前組や自衛隊の日本拳法のような「プロ」と正面から対抗せず、純粋な大学日本拳法として日本拳法を楽しんで欲しいと思います。




 来る12月1日には大学日本拳法の総決算とでもいうべき、府立(全日)が開催されます。この大会もまた私なりに楽しみたいと思っています。


2019年11月22日 平栗雅人


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2019年11月2日 東日本総合選手権大会 V1.1 @MasatoHiraguri

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